データセンターの世界動向とHVDC(高電圧直流給電)


オープンコンピュートプロジェクト(OCP)にIT大手企業各社が参加表明し、世界のデータセンターとテレコムにおける有力な方式として検討される事になりました。本格的な省エネと新たなデータセンターの時代が到来しようとしています。

テレコム各社とGoogle社がOCPに参加表明

Facebook社主導のオープンコンピュートプロジェクト(OCP)にテレコム各社とGoogle社がついに参加!今年2016年3月9日、サンノゼ コンベンションセンターに大きな歓声とどよめきが走りました。Facebook社が2009年より推進している、データセンターの新たな仕組みである、オープンコンピュートプロジェクト(OCP)が年に一度開催する世界会議(サミット)※参考1での出来事です。オープニング・セレモニー “Keynotes”が10時からスタートし、OCPの最新状況が説明され、その最後でGoogle社が登壇、いきなりOCPへの参加表明とDC48V方式を推奨する発表を行ったからです。

図1. Googleシニア・バイス・プレジデント Urs Holzle氏

図1. Googleシニア・バイス・プレジデント
Urs Holzle氏

今年の目玉は、事前に発表されていたテレコム各社の参加でした。AT&T社、Verizon社、STテレコム社など、世界を代表するテレコム各社がOCPに加盟しました。ネットワークの世界ではSDNの採用を始めとした技術革新が起きており、テレコム業界もデータセンター業界で進んでいる仕組みを採用せざるを得ない状況になっています。テレコム業界が進めてきたDC48V方式とOCPラックが融合する歴史的な瞬間でした。しかし、Google社のOCPへの参加表明は、これらの話題を一掃してしまうほどインパクトがありました。Google社は人工知能(AI)に力を入れています。IBMなどと進めている“Power Foundation※参考2”がそれらを推奨していたコンソーシアムであり、どちらかと言うと、今までGoogle社は通称“Power”でFacebook社に対抗していたように我々は感じていたのです。
人工知能用コンピューティング・システムは、通常のIAサーバーを使用するFacebook社やMicrosoft社とは違い、サーバーが大電力になります。そのため、Google社は、ここ数年DC48V給電方式を研究していました。人工知能用に考えられた専用のマザーボードの給電ロス、マザーボードに供給する配電ロスを考えると、DC12Vに対してDC48Vは電流が1/4になります。配電ロスは、I2Rのため電流の二乗で利いてくるので1/16のロスです。その代わり、DC48Vの絶縁コンバーターを搭載した専用の高価なマザーボードが必要になります。Google社は今まで、DC48VからDC12Vに変換する絶縁コンバーターとDC12Vから各チップに1V近辺で供給するVRM(非絶縁のDC/DCコンバーター)を組み合わせ、マザーボードの電源として供給する方式を取っていました。最近の動向では、DC48Vからマザーボードまで1段で変換する高効率絶縁コンバーターを各電源メーカーに開発させています。そもそもGoogle社は人工知能を意識しているため、安価なIAサーバーのマザーボードは使用できず、マザーボードが多少高価になっても、その差はシステム全体で考えれば吸収できてしまうのです。
2009年にFacebook社で始まったOCPは、2014年にMicrosoft社が参加、2015年にApple社が参加、そして今回のGoogle社、テレコム各社の参加により、USの名だたるIT大手企業が参加したことになります。世界のデータセンターとテレコムの仕組みに有力な方式として検討される事となったのです。

日本版OCPラックの発表

日本版OCPラック(V2)仕様

図2. 日本版OCPラック(V2)仕様

当社では、2005年よりHVDC(高電圧直流給電)の事業展開を行っています。直流給電機器が安くて高品質であることは、北海道石狩市にある、さくらインターネット社のデータセンターにて本格採用されたことで市場でも認められてきました。省エネ効果が高く、ノントラブルで信頼性も高いため、良い評判が得られています。しかし、本格普及しない一番の理由は、“直流機器”の種類が少ない事です。IT機器から電源が無くなり集中電源化することで、直流のサーバーラックが安くて省エネになることは技術的に明らかです。しかし、普及しなければ価格は逆に交流機器よりも高価になってしまいます。

当社では、これらを解決する方策として、OCPとの協業・連携を考え、OCPJ(オープンコンピュートプロジェクトジャパン)に参加し、HVDCを推進しています。OCPラックとHVDCは非常に相性が良く、集中電源の入力電圧を変更すれば接続が出来てしまいます。OCPラックが普及すれば、DC12V機器が次々に開発・発売されることになるため、一番のネックであった、“直流機器”が少ない問題が解決される事になります。

なお、現在米国を中心にOCPラックが開発されていますが、日本にそのまま輸入しても実は使用する事ができません。地震大国である日本のサーバーラック基準は世界で一番規格が厳しいためです。阪神・淡路大震災以降は耐震規格800galを求め、NTT規格では1,200galを求めている場合もあります。当社は、約2年前より日本の耐震基準に適合し、なおかつ日本製の高品質集中電源(村田製作所社製)でいかに安価に製作できるかを検討してきました。その結果、日本のサーバーラックメーカー大手を始め、現在約4社が、日本版OCPラックの開発を行っています。

今年のOCPサミットでは、伊藤忠テクノソリューションズ社と村田製作所社、当社の3社でニュースリリースを発表※参考3しました。市場の反応はOCPサミットの強烈なインパクトを受けている影響もあり好反応です。サーバーラックとしての引合いも増えてきています。

図3. 5月11日~13日に開催された「データセンター展」にてOCPラックを出展
図3. 5月11日~13日に開催された
「データセンター展」にてOCPラックを出展

図4. 5月11日~13日に開催された「データセンター展」での講演
図4. 5月11日~13日に開催された
「データセンター展」での講演

本格的な省エネと新たなデータセンターの時代が到来!

直流給電の大きなメリットに、自然エネルギーとの親和性があります。太陽光、風力、水力、燃料電池、超伝導など日本が誇る有数な技術もみな、直流とのダイレクト連携でさらなる能力を発揮します。現状のパワコンロスやグリッドロス、AC/DC変換ロスの削減となるため、自然エネルギーのロスを10~20%削減することが可能です。また、NAS、リチウム、レドックスフローなどの蓄電池も次々開発されています。自然エネルギーとバッテリー技術は、まさに直流給電で連携する事で最大限のメリットを発揮できます。日本には、世界に負けない先行技術がたくさんあるのです。
IoT・ビックデータ・人工知能を駆使したデジタルマーケティング系ビジネスの時代が確実に到来しようとしています。今こそ、技術を結集して世界一のデータセンターの仕組みを踏み切るタイミングに来ているのです。

参考文献



データセンターの世界動向とHVDC(高電圧直流給電)