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特別編:ゲーミフィケーション活用による「学び」の実践~「教授」から体験型の「学び」へ~(詳細版)


ゲーミフィケーションというフレーズを元に、短絡的に教育にゲームを取り入れたとしても、受講者の「注意をひく」だけでは不十分であり、その有用性は望めない。今回は、特別編として、インストラクショナルデザインの観点から、効果的な「学び」の形を考える。

1.ゲーミフィケーションは、動機づけモデル

数年前より、「ゲーミフィケーション」という言葉を目にする機会が増えてきた。通勤電車の中では、男女を問わずスマートフォンのゲームに熱中している光景をよく見かけるが、このゲームのもたらす「熱中する」仕組みを、ゲーム以外の他分野(オペレーション業務、マーケティング、教育 等)に応用した取り組みが「ゲーミフィケーション」である。

Googleトレンドを見ると、2011年頃から「ゲーミフィケーション」が急激に増えているが、過去にも似たようなコンセプト(シリアスゲーム、ARG 等)は存在しており、けして新しい概念ではない(*1)

Googleトレンド

*1:ゲームを現実の世界に応用した「ゲーミフィケーション」と、現実世界の事象をゲーム化した「シリアスゲーム」では、厳密には概念が異なるものであるが、本コラムでは、あえて「似たようなコンセプト」としてくくっている。

それにも関わらず、「ゲーミフィケーション」というキーワードが急増している理由は、「ゲーミフィケーション」を業務に取り入れた結果の成功事例が増えてきているからと、筆者は推測する。それは、単なるバズワードとしての紹介にとどまるのではなく、最近は、企業の取り組み事例として、各種サイトや書籍等でも掲載されていることからも分かる。

なお、「ゲーミフィケーション」の主な特徴として、「シンプルなルール(目標)」「ランキング(競争)」「バッジ(報酬)」等があげられるが、どれもがプレーヤーの動機づけを高めるための手段である。すなわち、「ゲーミフィケーション」とは、動機づけを高めることを目的としている。

2.受講者の動機づけを高めるARCSモデル

動機づけといえば、インストラクショナルデザインの手法の中にも受講者の動機づけを高めるための「ARCSモデル」がある。これは、米国の教育工学者であるJohn M. Kellerにより提唱されたもので、学習意欲を高める手立てを4つの側面により定義している。4つの側面には、「Attention(注意:面白そうだ)」「Relevance(関連性:やりがいがありそうだ)」「Confidence(自信:やればできそうだ)」「Satisfaction(満足:やってよかった)」があり、これらを満たすことで、魅力的な内容として受講者の学習意欲を高めることができる。

ARCSモデル:4つの要因

ARCSモデルの「A」の側面は、受講者の注意を引くこと(A-1知覚的喚起 等)であるが、教育にゲームを取り入れて、「あー、楽しかった♪」だけで終了しては意味がない。受講者の業務と教育内容の関連性「R」を明確にして、教育を通じて受講者に自信「C」をつけさせることで、受講者の満足度「S」を得ることができる。

また、研修受講後の修了アンケートは、終了直後に回答することが多いが、これだけでは、「A」の側面の影響が強く出てしまう。適切な効果測定を行うためには、アンケートは終了直後だけではなく、一定期間(半年~1年)を経た後にも再回答することが望ましい。研修受講後、実務にどれだけ役立てることができたのか、「A」だけではなく「R」や「C」の有効性も評価することで、本来の満足度「S」も含めて測定することができる。

なお、すでに学習意欲が高い受講者に対しては、過度な動機づけは不要であり、この場合、必要な側面だけを補強するにとどめることが肝要である。これらの学習意欲のデザインプロセスの検討(動機づけ目標・評価の設定、方策リストの設計 等)をおろそかにすると、ゲーミフィケーションの適用は失敗に終わるだろう。

3.ゲーミフィケーション活用による学びの実践

さて、当社では、「ゲーミフィケーション」を活用したワークショップ形式の研修サービスを提供している。これは、前述のARCSモデルも考慮に入れて作成したもので、ITサービスマネジメント、プロジェクトマネジメント、事業継続管理 等の各分野のコースをラインナップとして取り揃えている。ゲームを通じて「失敗」と「成功」を実際に体験することがコンセプトであるが、これは知識の「教授」というよりは、体験型の「学び」に近い。特に、自らの失敗から得る気づきは、受講者にとって教科書に書いてある内容以上に有用である。

「ゲーム形式で学ぶ! ITサービスマネジメント(ITIL®対応)実践ワークショップ」のマテリアル類

ゲーミフィケーションイメージ

カラフルなキット類とシミュレーター画面を共有しながら、ロールプレイ形式で進行するため、常に受講者の注意「A」をひきつけることができる。また、受講生は、自分自身の業務内容に関する分野を受講することで、単なる資格勉強ではなく、より実務面と学習内容の関連性「R」の意識づけができる。ロールプレイの前半ラウンドでは失敗を繰り返し体験しながらも、後半ラウンドではプロセスの成熟度を洗練させていき、成功体験をラウンドごとに積み重ねることで、自信「C」にもつながっていく。幸い、これまでの受講者からは、好評の満足度「S」を得ており、「上司からの勧め(強制?)」のような「やらされ感」はなく、むしろ「肯定的な達成感」として、前向きな気持ちで取り組むケースが多い。

また、本ワークショップでは、講師は、知識を教授する役目だけではなく、ファシリテーターとして振る舞い、場面ごとの必要性に応じて「学び」の場を促進(ファシリテート)している点が特徴的である。これらの内容の詳細に関しては、次回(第5回)より具体的に紹介する予定だ。

さいごに

さいごに、今年より本格的にスタートした「gacco(*2)」であるが、当社もインフラ面で構築支援に携わった。「gacco」では、無料で学べる大学講座として次々と新しいコースが開講しており、サイト開設9か月で会員数は8万人を超えている。「授業を視聴するだけで効果があるのか?」との声も一部あるが、講座の中には、「ディスカッション(掲示板)」や「相互採点」により、受講者同士の気づきを促す仕組みを設けていたり、「反転学習コース(*3)」としてリアル世界とのリンク付けを行う等、様々な工夫をこらしている。

gacco トップページ

*2:JMOOC公認サービスであるgaccoは、大学講師陣による無料のオンライン講座を提供している。  <http://gacco.org/ >
*3:授業を視聴するだけではなく、講師や受講者と意見交換してディスカッションで理解を深めるリアルな場を設けている。

このように、「学び」の新しい形は今後も創り出され、さらに洗練されていくだろう。われわれも、「学び」の形を検証し、受講者からのフィードバックも組み込みながら、ゲーミフィケーションを活用したワークショップを引き続き展開していく予定である。

参考文献

  • 「学習意欲をデザインする(ARCSモデルによるインストラクショナルデザイン)」John M. Keller 著 鈴木克明 監訳 ,北大路書房,2010,P47)
  • 「教材設計マニュアル(独学を支援するために)」鈴木克明 著 ,北大路書房,2002,P177~178[資料7、資料8])