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第1回 サービスとは?(前編)


サービスの定義

「サービス」という言葉から、みなさんはどんなものを想像するだろうか?もちろん、色々なサービスがあるわけだが、いずれにせよ、日本では「無料」や「おまけ」等のイメージが強いと思う。
「お客さん、ニンジンを2本買ってくれたから、ナスをサービスしようか」等が、よい例である。しかし、サービスとは、けして「無料」や「おまけ」だけを指す言葉ではない。
それならばと、会社の本棚にある金田一先生の国語辞書で「サービス」を調べてみると、以下のように記載されている(一部抜粋)。

サービス [名・自他サ] 【service】
  1. 給仕、奉仕。 「 -精神」 「 国民への- 」
  2. 接待(の しかた)。 「 -がいい」 「 -料」
  3. (商品に)おまけをつけること。
  4. サーブ。 「強烈な- 」
(見坊豪紀・金田一京助・ほか編.“サービス(名・自他サ)[service]”.国語辞典.第五版、三省堂、2001)

たしかに、上記3は、「おまけ」そのものである。

とはいえ、本コラムでは、「ITサービスマネジメント」について発信しているので、その拠り所として、今度は、ITIL®のコア書籍(*1)の用語集で「サービス」を調べてみると、

サービス(Service)
「顧客に価値を提供する手段の1つ。顧客が特定のコストやリスクを負わずに、期待する成果を実現することを「促進」する。(~以下、略)」
(Lou Hunnebeck.“サービス(service)”.ITIL®サービスデザイン(2011 edition)、TSO(The Stationery Office)、2012、p.405)

とある。少し分かりづらい表現のため、以下にイメージ図も追加した。
(なお、コア書籍では、顧客(orユーザー)にITサービスを提供する側を、「ITサービスプロバイダー(以下、ITSP)」と定義している)

サービスとは

イメージ図を見るとポイントは2つある。1つめのポイントは、ITSPが、特定の「コスト」や「リスク」を肩代わりして、顧客(orユーザー)に対して「サービス」を提供している点である。「コスト」と「リスク」については次項で紹介する。もう1つのポイントは、ITSPが顧客に対して「サービス」を通じて「価値」を提供している点である。こちらも次項で紹介する。
(なお、コア書籍では、「価値」とは、顧客の認識によって定義されるものと記載している)

*1:ITIL®は、「コア書籍」と呼ばれる5冊の書籍により、主に構成されている。

システム提供からITサービス提供へ

顧客の認識といえば、ハーバードビジネスレビューの編集長を務めたセオドア・レビッド教授のこんな有名な言葉がある。

「顧客は、1/4インチ径のドリルが欲しいわけではない、1/4インチの穴が欲しいのだ」

セオドア・レビッド教授

ホームセンターを例にとって、サービス提供側から考えてみると、
テーブルの導入を検討している顧客に対して、店員は、テーブルを制作するために必要なドリル(道具)の製品紹介(性能面のアピール 等)やデモを実演している。ところが、顧客からすると、ドリル(道具)が欲しいわけではなく、あくまでテーブルが欲しい。そのため、店員は、ドリル(道具)を頑張って紹介するよりも、穴の開いた木材(テーブル組立セット)を提案した方が、顧客からみるとのぞましい(最近では、IKEAのように、特殊な道具を必要としない組み立て式のテーブルも増えている)。「顧客は何を要求しているのか」「顧客にとっての価値は何か」、サービス提供側には、製品志向だけではなく顧客志向が求められる例である。

一方、顧客には、ドリルという特殊工具を購入する「コスト」と、慣れないドリルで自分の手に穴をあけてしまう「リスク」が存在する。そこで、ホームセンターが、「コスト」と「リスク」を肩代わりして、顧客に「サービス」を通じて「価値」を提供することで、顧客の要望を満たすことができる。ホームセンターに行くと、大半の店舗で穴あけ加工サービスなるものを提供しているが、これはまさに「サービス」である。(穴あけ加工料が必要だが、ドリル購入の「コスト」と比較するとはるかに安価である。また、「サービス」とは、けして無料ではないことをこの例では示している。)

ITも同様である。
業務をシステム化し、システムを「道具(単なる箱もの)」として利用していた時代は終了した。システム提供からITサービス提供へのシフトが進むにつれて、ITサービスは、顧客のビジネスの重要な供給源となっていくだろう。見方を逆にすると、ITサービスの中断がビジネスに与える影響は、甚大なものになるといえる。
なお、ITサービスの中断がビジネスに与える影響(機会損失)については、第5回のコラムでも、ゲーミフィケーションのワークショップ内容と共に紹介する予定だ。

システム提供からITサービス提供へ

サービスにおける価値の定量化

少し話が脱線するが、今回のコラムの締めくくりとして、価値の定量化について、スルガ銀行と日本IBMの訴訟事例をとりあげる。
勘定系システムの開発中止の責任を巡り、スルガ銀行が日本IBMに対して 116億円の支払いを求めた裁判である。争点は、ITベンダーの「中止提言義務」といったプロジェクト管理よりの話であるが、今回は、「サービスの価値」を切り口にして紹介する。

スルガ銀行・日本IBMの訴訟事例

本コラム執筆時点では、第二審(高等裁判所)の判決(2013.9.26)も出ているが、話を分かりやすくするためにあえて、第一審(東京地方裁判所)の判決(2012.3.29)を表記している。
第一審の判決結果では、どのマスコミも「スルガ銀行全面勝訴」の論調が多いように見受けられた。理由は、システム開発中止による実損害(約74億円)の払い戻しが100%認定されたからだ。
ところが、システム開発中止による逸失利益(約41億円)については、一切認定されていない。
顧客(スルガ銀行)から見ると、この認定されていない機会損失(逸失利益)の金額が、ITサービスの価値(定量化すると約41億円)に該当するともいえる。(上図参照)
顧客は、けしてシステムという箱もの(先ほどの例ではドリル)が欲しいわけではない。約41億円の利益を出すためにIT投資を行ったのだが、ドリルを手配できなかったために、穴をあけることができず(価値を生み出せず)、結果的にビジネス上にも大きな影響(機会損失)が発生した。
前項でも紹介した通り、このような中断がビジネスに与える影響は、甚大なものになっている。

さて、今回(前編)は、サービスに関連する要素として、「コスト」と「リスク」、そして「価値」について、いくつかの事例をまじえながら紹介した。次回(後編)は、サービスサイエンスの観点から、サービスマネジメントを行う上で必要な要素を紹介する。