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第2回 サービスとは?(後編)


サービスの特徴(無形性・消滅性・非均質性・同時性)

前回(前編)は、サービスに関連する要素として、「コスト」と「リスク」、そして「価値」について、いくつかの事例をまじえながら紹介した。今回(後編)は、サービスサイエンスの観点から、サービスマネジメントを行う上で必要な要素を紹介する。

サービスサイエンスでは、従来のものづくり(製造業)と比較する形で、サービスの特徴を4つ定義している。(IHIP特性)

「サービスの特徴(IHIP特性)」 美容室を例にとって、
サービス提供側から考えると、、
形がない、手に取って試すことができない 無形性:Intangibility カット前に、顧客に試用してもらうことが難しい
品質の標準が困難である 非均質性:Heterogeneity 美容師の技術の差(アタリ・ハズレ)が存在する
サービス提供(生産)とサービス消費が同時に発生する 同時性:Inseparability (simultaneity) サービス提供(カットする)とサービス消費(カットされる)が同時進行する
保存することができない、サービスの作り置きができない 消滅性:Perishability ヘアカットの作り置きができない

「無形性」「非均質性」「消滅性」の3つは比較的イメージしやすいが、「同時性」については、日頃から意識する機会は少ないのではないだろうか。ところが、この「同時性」こそが、ITサービスをマネジメントする上でのキーポイントと筆者は考える。
そこで、今回のコラムの主題として、サービスの「同時性」にフォーカスをあてながら、サービスの「品質」について紹介する。

SLA(Service Level Agreement)は、サービス品質の根拠

毎朝、通勤で利用している電車やバスも、立派なサービス(鉄道サービス等)のひとつである。そこで、鉄道サービスを提供するにあたり、「同時性」という側面からみてみよう。仮になんらかの原因でサービス提供側の「品質」が劣化した場合、リアルタイムで顧客(サービス消費側)にも影響をおよぼすことになる。以下の例をみてほしい。

  • 例1)鉄道サービスで、電車が遅延すると、リアルタイムで乗客に迷惑をかけてしまう。
  • 例2)研修サービスで、講師が休んだ場合、リアルタイムで受講者に迷惑をかけてしまう。
  • 例3)映画サービスで、映写機が故障した場合、リアルタイムで観客に迷惑をかけてしまう。

これが、従来のものづくり(製造業)の場合だと、製品の生産と消費の間にタイムラグがあるため、「品質」の劣化が、ここまで顕著に顧客に影響をおよぼすことは少ない。(TVの工場見学番組等でよくみられる、ライン上を流れる製品を装置で測定し、不良品を、“ピピッ”と除去する光景を思い浮かべてほしい。一定の「品質」基準に達していない不良品は、消費者の手に届く前に破棄されているため、顧客への影響は少ない。)

前回、紹介した通り、ITサービスの中断がビジネスに与える影響は、甚大なものになっている。そこで、安定したITサービスを提供するためには、サービスの「品質」を適切にマネジメントする必要がある。本コラム題名の「ITサービスマネジメント」とは、ITサービスの「品質」をマネジメントすること、と言い換えることもできるだろう。

さて、「品質」をマネジメントするといえば、国際規格としてISO9000(QMS:品質マネジメントシステム)が発行されているが、マネジメントする上でのポイントは、「要求事項」の準拠にあるといえる。とはいえ、ISO規格の「要求事項」の内容には、漠然とした記述も多い。(QMSの内容については、本コラムでは割愛する)

それでは「ITサービスマネジメント」における「要求事項」とは何か、考えてみよう。
ITサービスマネジメントに関する国際規格としてISO/IEC20000があるが、章項目が多い(プロセスが多い)ので、今回はシンプルに考える。前回、サービスの「価値」は、顧客の認識によって決まると紹介した。そこで、顧客目線からよくよく考えていくと、サービス品質の「要求事項」として明確に1つのキーワードが浮かび上がってくる。

それは、「SLA(Service Level Agreement)」である。

少し強引な例ではあるが、鉄道サービスにおける「時刻表(ダイヤ)」を「SLA」に置き換えてみる。ローカル線のように1時間に1本のダイヤ通りの運行であったとしても、顧客は文句を言わない。なぜなら「SLA」を遵守している(ダイヤ通りの運行)からだ。ところが、3分に1本の運行ダイヤで、10分程度の遅れが発生すると、顧客の満足度は大きく下がる。すなわち、先のローカル線(1本/1時間)と比較すると、はるかに運行本数が多いにも関わらず顧客の満足度が下がることになる。これは、「時刻表(ダイヤ)」すなわち「SLA」が、顧客からみたサービス品質を判断する根拠になっているためだ。

「時刻表」の遵守状況により、顧客の満足度は左右される

以上より、サービス提供者が、自身のサービス提供の品質の妥当性を証明するものは、「SLA」に他ならない。「SLA」がないと、いくら自分たちが迅速にインシデント復旧作業を実施したとしても、顧客から見れば、復旧作業が「早い」のか「遅い」のか、サービス品質を判断することが難しい。もしかしたら、インシデント発生時の顧客の心証により評価が左右されるケースもあるだろう。
「SLA」を適切に活用することで、顧客ニーズが明らかになり、顧客が求める適切な水準のITサービスの提供が可能になる。

次回は、この「SLA」を検討するプロセスとして、「サービスレベル管理(Service Level Management)」を紹介する。