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第5回 シミュレーション・ワークショップとは?(前編)


ITサービスマネジメント ワークショップ

前回のコラム(特別編)では、「ゲーミフィケーション」の動機づけモデルについて、ARCSモデルなどを引き合いに出しながら、「学び」の有用性について紹介した。今回からは、より具体的なテーマとして、当社で開催している「ゲーミフィケーション」を活用したシミュレーション・ワークショップを題材に取り上げ、ロールプレイを通じたSLA検討プロセスやITサービスの改善プロセスの経験学習を3回にわたり紹介する。

さて、その前に、ここまでのコラム(計4回)の内容を簡単に振り返っておこう。
※ラウンド表記は、後述するゲーム内容のラウンド数。各内容とラウンド数とのひもづけは、次回以降、紹介する。

これまでのコラム ● 第1回:ITサービスの「価値」は、顧客の認識により決まる。【ラウンド1】 ● 第2回:ITサービスの「品質」は、「SLA」が妥当性の根拠になる。【ラウンド2】 ● 第3回:プロアクティブな対応は、モニタリング結果(*1)が投資の根拠になる。【ラウンド3】 ● 第4回:「SLA」の策定(*2)には、サービスカタログが必要である。【ラウンド2と3】

*1:Hondaのインターナビの事例、*2:サービスベースのSLA

また、前回のコラム(特別編)では、ゲーミフィケーションは、ゲームの要素(目標・競争・報酬 など)を活用しながら動機づけを高めることを目的としている旨を伝えたが、本ワークショップ(以降、WS)も同じである。シミュレーター画面(目標)を受講者全員で共有し、3ラウンドを通じて失敗と成功を繰り返しながら、継続的にITサービスを改善していくこと(競争(*3)・報酬 など)で、受講者の動機づけ(能動的な参加)を高めている。

*3:本WSでは、顧客側とIT側のロールに分かれており、当初(ラウンド1)は競争意識が強いものの、お互いが協力してWinWinの関係を構築していかなければならない(ラウンド2~3)。そのため、「競争」というよりは「共創」に近いといえるだろう。

ゲームのコンセプト 

本WSでは、架空の企業「ポールスター社」のビジネスを支えるITサービスを題材にしている。これらのITサービスが適切に提供されるように、受講者は、各々に割り当てられた役割(ロール)に応じて、与えられたミッション(障害対応、SLA交渉、新規サービスの設計 など)をそれぞれクリアしていかなければならない。この一連のミッション(1ラウンドあたり25分間)を計3ラウンド対応するのだが、実際に体験してみると最初の1ラウンド目は、失敗続きとなる。しかし、それぞれのロールで失敗を「内省(ふり返り)」して、自分たちのプロセスの見直し・改善を行うことで、2ラウンド目以降はITサービスマネジメントのプロセスが成熟し、その結果、ミッションにも円滑に対応できるようになる。このような「失敗体験」および「内省(ふり返り)」を通じて、実践的なITサービスマネジメントを行うための「気づき」を得ることが、本WSのコンセプト(*4)である。なお、気楽に失敗を体験できるのは、ゲームならではの強みとも言えるかもしれない(実際の本番環境ではけして許されないからだ)。

*4:「経験学習」とも言う。Kolbの経験学習については、次回以降のコラムで概要を紹介する。

ラウンド1~ラウンド3(2)

受講者に割り当てられるロール

まず、顧客側の「ポールスター社」とIT側の「WWW社」の2社に分けられる。受講者に割り当てられるロールには、ポールスター社の「(1)社長役」と「(2)事業部長役」、そして、WWW社の「(3)デリバリーマネージャー役」「(4)サービスデスク役」「(5)テクニカルスペシャリスト役」といった具合に、計5つのロールを設けている。

なお、WWW社は、ポールスター社からITサービスの提供業務を受託している立場(ITサービスプロバイダー(*5))にある。

*5:ITサービスプロバイダーに関しては、コラム第1回「サービスとは?(前編)」 を参照のこと。

ポールスター社とWWW社

上図の通り、ポールスター社は4つの事業部から構成され、それぞれの事業部が「家電製品」「IT機器」「ミュージック」「書籍」といった主力製品をそれぞれ販売している。販売活動を効果的かつ効率的に行うために、ポールスター社では、『倉庫管理』『複数店舗』『買い物カゴ管理』『顧客ロケーション』などのITサービスを積極的に導入しており、これらITサービスのマネジメントをWWW社(ITサービスプロバイダー)にアウトソーシングしている。

シミュレーター画面の見方

1ラウンドあたり25分間と紹介したが、シミュレーター上の時刻は、ゲームの仕様上14時から取引を開始する。そのため、14時00分~14時25分までの25分間が、ミッションに対応するための時間帯となる。

シミュレーター画面

また、画面右下には、ゴチャゴチャと1分ごとのトランザクションの取引成立可否のステータスが色分けして表示される仕組みなのだが、本コラムでは細かい内容は割愛する。ポールスター社から見ると、トランザクションが1件成立するごとに売上が加算されていく。一方、障害発生時には、トランザクションを処理できなくなるため、取引が成立せず、結果的に売上の機会損失につながる。

コラム第1回「サービスとは?(前編)」 でも触れた通り、ITサービスは、顧客のビジネスの重要な供給源となっており、ITサービスの中断がビジネスに与える影響(売上の機会損失)は、甚大なものになっている。そのため、障害発生時には、後述の<インシデントチケットの流れ>にある通り、迅速なエスカレーションおよび復旧作業が求められる。

ITサービス名称およびステータス表示

なお、画面上部のカラフルなアイコンは、ポールスター社が販売活動を効果的かつ効率的に行うために導入したITサービス(前述の『倉庫管理』『複数店舗』『買い物カゴ管理システム』『顧客ロケーション』など)を表しており、アイコン右側のエリアが、緑色の場合は「正常稼働」、赤色の場合は「障害発生」のステータスを示している(当然、赤色の場合は、後述のエスカレーション対応が必要になる)。

座席配置および配布マテリアル

本WSでは、受講者一人ひとりにパソコンを配布しているわけではなく、正面のスクリーン上に投影したシミュレーター画面を全員で共有している。また、受講者は、前述のロールに分かれて各テーブルに着席しており、どのテーブルからもシミュレーター画面を閲覧することが可能だ。

座席配置

ゲームの流れ<インシデントチケットの流れ>

それでは、ゲームの流れを見ていこう。

前述の通り、シミュレーター上の取引開始時刻である14時からスタートする。シミュレーターを起動すると、ものの1分も経たないうちに、シミュレーター上で障害が発生し、けたたましいサイレン音とともに、障害が発生したITサービスのアイコンが赤色にかわる。

以下の例では、『倉庫管理』(フォークリフトのマーク)に障害が発生している

(1)社長役、(2)事業部長役

(1)社長役、(2)事業部長役は、シミュレーター画面を確認して、障害が発生していることを識別し、サービスデスクに通報しなければならない。なぜなら、障害が発生している間は取引が成立せず、その分、売上の機会損失につながるからだ。

サービスデスクに通報する内容は、以下の3つである。

  1. インシデント発生時刻
  2. 影響を受けているサービス名称
  3. 影響を受けている事業部名
これは、付せん紙で伝えても口頭で伝えても構わない。

なお、障害が発生しているアイコン(赤色)は、手元のマテリアル(サービス名称一覧)を参照して、サービス名称を特定することができる(この例では、青色のフォークリフトのアイコンは、『倉庫管理』と特定できる)。

事業側→サービスデスク側(2)

参考:「サービス名称一覧」(実物)

(4)サービスデスク役

(4)サービスデスク役は、顧客から通報を受けた内容を精査して、(5)テクニカルスペシャリスト役にエスカレーションする。

テクニカルスペシャリストにエスカレーションする内容は、以下の3つである。

  1. インシデント発生時刻
  2. コード名称
  3. 影響を受けている事業部名

ただし、「2.影響を受けているサービス名称」の「サービス名称」は、(5)テクニカルスペシャリスト役では、知覚できない情報のため、(4)サービスデスク役が、「サービス名称」を「コード名称」に変換してから伝える必要がある。これは、あらかじめ配布している変換表を元に変換作業を行う。

サービスデスク→テクニカルSP

参考:「コード変換表」(実物)
コード変換表

(5)テクニカルスペシャリスト役

(5)テクニカルスペシャリスト役は、大別すると以下の3つの役割に分かれる。

<役割1:コード変換>

サービスデスクからエスカレーションを受けたコード名称をアプリケーション名に変換する。

参考:「コード変換表」(実物)
コード変換表

<役割2:切り分け>

上記の変換作業で特定されたアプリケーション名と、インシデントの影響を受けている事業部名称(数字表記)の2つの要素から、別紙の切り分け対応表を用いて切り分け作業を行い、障害内容とリンクするQ番号を特定する。

参考:「切り分け表」(実物)

<役割3:復旧対応>

上記の切り分け作業で特定されたQ番号を元に、受講者に配布している「復旧用マニュアル」から該当するQ番号の解決作業を図っていく(問題を解く)。

参考:「復旧用マニュアル」(実物)



3つの役割を整理すると、以下の流れとなる。

テクニカルSP(2)

解決できたら(問題が解けたら)講師に連絡し、内容が正解であれば、障害から復旧する仕組みだ。障害から復旧することで、再びトランザクションも処理できるようになるので、ポールスター社から見ると、取引が順調に成立していき、その結果、売上も伸びていく。

さて、未だ登場していない(3)デリバリーマネージャー役は、何をする役目かというと・・・

(3)デリバリーマネージャー役

(3)デリバリーマネージャー役は、上記のエスカレーションフローに直接絡まないが、障害の暫定対処としての「ワークアラウンド」や恒久対処としての「コンサル対応」のオプションを行使することができる(どちらもオプション行使にあたり、一定のコストが発生する)ので、必要に応じて障害対応の交通整理を行う。

また、グリーンカードなるミッションが別途、講師から配布されるため、与えられたミッションに対して、随時対応していく必要がある。

デリバリMG、グリーンカード(変更カード)



ゲームの流れ(インシデントチケットの流れ)は、以上である。
インシデントチケットの流れ以外にも、「新規サービスの検討」や「キャパシティ設計」などのタスクも走っていくが、すべてを紹介すると説明が複雑になるため、本コラムでは割愛する。

さいごに

今回は、紙面の都合により、シミュレーターの概要をざっと紹介するのみにとどまった。
そこで次回は、実際にゲームを開始して、ラウンドごとに体験する失敗内容や内省によって得られる気づきについても触れていきたい。また、あわせて、SLAの交渉フェーズについても紹介する予定だ。