第2回 AIの活用トレンドとその導入方法

第2回目では、実際にAIを導入したいと考えている一般企業の方々のために、いま、どのような目的で、どんな種類のAIの導入が進められているか、現在注目されているAI活用のトレンドについて紹介したいと思います。

また、AI導入になにが必要なのか?どのような手順で導入をすすめるべきなのか?など、AIを実際に導入する場合に知っておきたいポイントについても紹介します。

1. AI活用のトレンド

ディープラーニングに代表されるAI技術の進歩や、IoT、ロボティクスとの結びつきにより、世の中ではAI活用の新しいトレンドが生まれています。以下は、現在盛り上がっている5つのAIの活用トレンドです。

トレンド1:自然言語による対話サービスが一般化

Amazon Echoに続いて、先日GoogleからもスマートスピーカーGoogle Homeが日本で発売されました。スマートスピーカーの特徴は、AIとの音声対話を通じて、気軽にさまざまなサービスが受けられる点です。
このような対話型サービスは、さまざまな形で世間に広まりつつあります。たとえばスマホやパソコンでは、チャットボットとのテキスト会話による問い合わせ対応や注文受付などのサービスが一般化しつつあります。また、ソフトバンクのPepperのような音声会話ができるコミュニケーションロボットも、店頭での顧客対応等に導入が進みつつあります。今後は、自動車の中でも、機器操作やマニュアルの検索などに音声対話の適用がすすむでしょう。

トレンド2:画像理解技術の応用が続々登場

画像の理解技術の進展とともに、さまざまな画像理解技術の応用サービスが登場してきています。たとえば、店舗カメラに映った人間の年齢や性別を推定するとともに、どの商品を手に取ったか?といった行動を特定する実店舗向けマーケティングサービス、トレイの上の商品を認識して、自動的に会計をしてくれるスマートレジサービス、スマホで撮影した料理の名称を推定したり、カロリーを計算してくれるパーソナルエージェントサービスなどです。交通や店舗における監視カメラの普及、自動車、スマホ向けのカメラの高性能化などで、今後さらに高度な画像理解技術の応用が進むでしょう。

トレンド3:専門家の知的な業務を支援するAIが普及

最近トレンドとなっているITキーワードに「RPA(Robotic Process Automation)」があります。これは人間がマウスやキーボードなどを使って行っている定型的なデスクワークをソフトウエアロボットと呼ばれる仮想労働者に覚え込ませ、代行してもらうことで、業務を自動化することを指します。もちろん、RPAでは、定型的ではない高度な専門知識を用いた業務を自動化することはできません。しかしながら、AIを用いることでこのような専門家の知的な業務の自動化・半自動化も進みつつあります。

たとえば医療分野では、医療画像からの癌の発見にAIが用いられており、専門医の能力をはるかに超える精度を実現しています。保険分野では、診断書の記載内容に基づいた生命保険の支払審査にAIが用いられており、一部の難易度の高い請求以外はAIによる自動審査を実現しています。 金融取引においては、AIが過去の取引からトレーダーの判断基準を学習し、トレーダーの取引を代行することも試行されており、報道機関では天気予報やスポーツ報道等においてAIによるニュース原稿の自動作成が導入されつつあります。
完全な自動化は困難としても、少なくともAIが知的業務の効率化を目的に導入が進むことは間違いないでしょう。

トレンド4:知的な行動ができるロボットが続々と登場

カメラ、マイクロフォン、各種センサーなどを用いて、対象や周囲の状況を把握し、知的な行動をとるロボットがさまざまな現場で活躍しています。農業分野では、熟した実をカメラで把握し、3次元センサーで実の位置を把握することで、熟した実のみを収穫する農業ロボットが登場しています。また、製造現場では3次元スキャナーから得られた製品形状と3次元CADデータとをつきあわせ、設計通り製品ができているかを人の手が届かない部分までチェックしててくれるロボットが登場しています。トレンド1で取り上げたコミュニケーションロボットも、さまざまなセンサーと組み合わせることで、より知的な行動をとることができます。たとえば高齢者の見守りをするロボットは、ベッドについた離床センサーやピルケースについた開閉センサーから、高齢者の行動を把握し、行動に即した会話を行うことができます。(「ベッドから起きる:おはようのあいさつ」、「ビルケースを開ける:薬の服用数の確認」など)

トレンド5:人間を取り巻く環境自体がAI化

最後のトレンドは人間を取り巻く環境自体が目や耳などを備え、状況の変化に応じた行動を起こすAI化のトレンドです。たとえば有名なGoogleのデータセンターの例ではデータセンターの稼働状況や、データセンターをとりまく気候の変化に応じてAIが空調機器を細かく制御することで、消費電力を40%削減することに成功しています。
NTTデータが中国の都市で行った例では、市内に設置された交通カメラから車の流れを把握し、AIが未来の渋滞の発生が最小となるように、信号の点灯間隔を変更することで渋滞の発生を最大51%、平均10%削減することに成功しています。
また同じくNTTデータの医療分野でも、ICU (集中治療室)の事例があります。ICUには、患者の容体を監視するために、血圧、脈拍、体温、血糖値等さまざまな数値を常時測定する機器が備わっています。それらの機器から取得されたデータをもとにAIが近未来(2時間後)の病変を予測し、医師に警告をだすことに成功しています。

日本においては、過去に構築したさまざまな社会インフラの老朽化が進み、地方の過疎化や都市への人口集中が問題となっている中、多様な社会インフラへのAIの適用は問題解決のための有力な手段と期待されています。

2. AI導入に必要なもの

次にAIを実際に導入する場合に知っておきたいポイントとして、AIを導入するためには、なにが必要なのかという話をしたいと思います。

前回のコラムでは、AIの三大構成要素「アルゴリズム」「データ」「ハード」のお話をしました。AIを作るうえで、これらの三大要素は欠かせません。
一般企業において、これらのものを用意することは困難でしょうか?アルゴリズムに関しては、最新のアルゴリズムはツール化され、フリーまたは安価で利用することができるようになっています。また、ハードウェアについても、年々性能が向上し安価になっています。つまり、アルゴリズムやハードウェアの入手は比較的容易です。
それではデータはどうでしょうか?データは、基本的に作りたいAI に応じて用意する必要がありますが、簡単には用意できないケースが良くあります。そのためAIの導入を断念することがしばしばおこっています。

また、三大構成要素以外にももうひとつAIの導入には必要なものがあります。それはヒトです。人の役割は、どんなAIをつくって、業務課題の解決や新サービスの創造を実現するか「デザイン」することです

そのためにはAIの開発のスキルを備えたエンジニアと対象業務や業界に関する知識・経験を備えたスペシャリストの2種類のヒトが協力して作業することが必要となります。しかしながら、一般企業にはAIのエンジニアがいることは希であり、データと並んで、AI導入のネックとなるケースが多いです。

AIの活用レベルに応じた導入スタイル

では、一般企業がAIを活用するにはどのような方法があるのでしょうか?手軽で簡単な導入から本格的で高度な利用まで、いくつかの利用形態が考えられます。

IT自体詳しくないがAIを活用したい

もっとも手軽なAIの導入方法はいわゆる「出来合い」のAIを備えたソリューションを購入することです。クラウドベースのサービスであればハードウェアの用意も必要ありません。AI人材がいなくても、安価かつ即座に導入できるというメリットがありますが、ユーザーに合わせたカスタマイズが困難、ユーザーの課題にマッチしたソリューションが必ずあるとも限らないといったデメリットもあります。

自分で作りたいが本格的なAI人材は用意できない

自前でシステム構築はできるが、本格的なAI人材は用意できないというユーザは、IBM、マイクロソフト、GoogleといったAIベンダーが提供するAIのAPIを使って自前のAIサービスを作成する方法がよいかもしれません。これであればユーザーの課題にマッチしたジャストフィットのサービスを作ることができます。デメリットとしては、AIベンダーのAPIを使うと、ユーザーの求めるサービスレベルを実現できない可能性があったり、APIに対して非常に多くのトランザクションを発生させると、多額の費用が発生する可能性があることがあります。また当然、個人情報等の高セキュリティデータを社外に出すことをセキュリティポリシー上認めていない場合、APIを利用することはできません。

AI人材を用意して一からつくりたい

AIを一から作成する本格的なAI活用を求めるユーザーであれば、機械学習等のツールを用意し、AIを作成するための学習データを収集整理し、AIベンダーが提供するAIよりも高性能なAIを作り上げる方法を選ぶことになります。データとツールがあれば、深くAIを理解したエンジニアがいなくてもそれなりの性能のAIを作ることはできますが、より高性能なAIを作るためには、非常に大量かつ質の高い学習データを用意する必要があったり、アルゴリズムに関する高い知見やツールの使いこなしのノウハウが必要となるため、楽な道ではありません。

3. 導入手順

次にAIを導入するための手順についてお話します。
まず、なによりも重要なことは、解きたい業務課題、そしてそのために作りたいサービスの設定です。
課題から始めず、AIの導入自体を目的化してしまうと、安易なAI導入となってしまい、途中で頓挫してしまうケースが良くあります。
優先順位的に低い課題が対象に選ばれるとか、試行導入に成功したが、投資対効果がつりあわず、本格導入をあきらめたとか、そもそもAI適用が向いていない課題にAIを導入しようとしてしまうなどの失敗を起こさないために、どんな課題を解きたいのか?その課題を解くためにはAIは有効なのか?ということをまずは検討する必要があります。

つぎに重要なことは、試行的にAIを適用するPoC(Proof of Concept)フェーズの導入です。AIはすでに同業他社で使われているからといって、必ずしも自社で有効とは限りません。企業によって業務のやり方は異なり、要求されるAIの機能や性能はまちまちです。また、AIは、導入してすぐに実用性能がでるわけではありません。時間をかけてAIを育てていく必要があります。AIの有効性を確かめ、本格的な業務で利用できるレベルまで育てるために、PoCは非常に役に立ちます。

PoCの次は本格導入のフェーズとなります。このフェーズで考慮すべきことは、AIの運用の仕組みをきちんと考えることです。AIを人手でメンテナンスするのは非常に手がかかります。通常の業務やサービスを実行するなかで、自然とデータが蓄積され、AIが学習、成長する仕組みを実装することが理想です。
また、時間が経ちとともに法律やビジネスが変化し業務やサービスを変更する必要が出てきます。その時、変更に応じてAIも作り替える必要が生じるケースがしばしばおこります。そのような場合にも柔軟に対応できるような仕組みを設けることも重要です。

4. 次回予告

次回は、AIの導入に失敗しないために気を付けるべきポイントについて、もう少し詳しく話したいと思います。

Writer Profile

Blue3事業部
戦略推進担当 エバンジェリスト
城塚 音也



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