第4回 IBM FlashSystemについて


IBM FlashSystemの歴史

今回は具体的なオール・フラッシュ・ストレージ製品について解説していこうと思います。Blue3がお薦めするIBM FlashSystemについてご紹介します。

IBMは、2012年8月にTexas Memory Systems(TMS)社の買収を発表しました。TMSは1978年に設立された半導体ストレージベンダーで、早くからフラッシュ・ストレージ製品の開発を手掛け、RamSanシリーズというフラッシュ・ストレージ製品を市場に投入していました。

そのTMS RamSanシリーズの流れを汲んだ製品として、2013年4月にIBM FlashSystemが発表されました。FlashSystemをIBMが発表したことにより、オール・フラッシュ・ストレージの市場がますます活性化したのは前回のコラムで述べた通りです。

さらに、IBMは2014年1月に新モデルのFlashSystem 840を発表しました。2013年に発表したモデル(FlashSystem 710/720/810/820)は、TMS RamSan モデル710/720/810/820ベースのファームウェア更新モデルでしたが、モデル840はIBM買収後に初めて自社開発した製品で、IBMオリジナルの管理GUIやハードウェア設計が実装されました。詳しくは後の項で説明します。

FlashSystem 710 840

FlashSystem の特長

FlashSystemの特長は、高速性を追求したオリジナル・デザインにあります。汎用SSDを使用せず、メーカーが独自に開発したフラッシュ・メモリー・モジュールを搭載しています。制御装置部分には、通常のCPUを使わず、FPGA(Field Programmable Gate Array)という基盤回路を採用しています。汎用CPUでのソフトウェア制御ではなく、FPGAによるハードウェア制御を行うことで高速処理を実現しています。

汎用CPUとFPGAの違い

第3回でも解説しましたが、これらの技術を使うことにより、HDDやSSDベースのシステムでは不可能な同時複数アクセスが可能です。HDD、SSDベースのシステムは一時点で一回のアクセスのみに対して、FlashSystemは、リード/ライト/消去という3種類のオペレーションを取り混ぜて、1チップに対して同時に8オペレーションを実行可能です。またSSDのようなHDDエミュレーションの負荷やCPUのソフトウェア制御によるオーバーヘッドがありませんので、高速なIO性能と低レイテンシーを実現しています。

FlashSystemのモジュールデザイン

その他の特長としては、メーカー独自のデザインならではの高集積性と高信頼性が挙げられます。

上図のように、FlashSystemのフラッシュ・モジュールは1枚の基板に最大80個のフラッシュ・チップを集積可能です。フラッシュ・モジュール1枚あたり最大4TBの容量で、これを12枚まで2Uの筐体に搭載することができますので、HDDの形を模しているSSDベースの装置に比べて、高い集積密度を持っています。

また、汎用SSDの場合、ドライブ内に集積したフラッシュ・チップのどれか一つでも故障した場合、ドライブ全体の障害となります。これに対してFlashSystemのフラッシュ・モジュールは、モジュール内部のチップをさらに16分割した小さなブロック単位(プレーンと呼びます)でRAID 5構成(9Data+1Parity)を組んでおり、モジュール内部のチップが故障しても全体としては稼働し続けることが可能です(モジュール・レベルRAID 5と呼んでいます)。通常のHDDやSSDのRAIDでは、ドライブを丸ごとリカバリーするのに対して、チップ内で分割したブロックという非常に小さな容量でのRAID構成のため、秒単位の超高速リカバリーが可能です。

モジュール・レベルRAID 5

障害時の回復動作としては、Variable Stripe RAID(VSR)™という特許技術を用いています(下図参照)。チップの一部に障害が起きた場合、この一部をRAIDグループから切り離し、8D+1Pのセットで正常なRAIDとして復旧します。さらに障害が発生したら7D+1Pとして稼働します。同様にして6D+1Pまで正常稼働可能です。

Variable Stripe RAID(VSR)TM 【特許】

モジュール・レベルでのRAID構成に加えて、既存HDDやSSDベースの製品と同様なシステム・レベル(フラッシュ・モジュール間)でのRAID 5構成も可能です(12枚構成の場合、10D+1P+1Spare)。つまり、モジュール内とモジュール間の二重のRAID 5構成を取ることが可能です。これを二次元フラッシュRAIDあるいは2D Flash RAIDと呼んでいます。RAID-6による単純なドライブの二重障害回避だけを行ってきた既存システムよりも高い可用性を実現しています。

2D Flash RAID(二次元フラッシュRAID)

FlashSystem 840の特長

ここからは、営業活動中(2015年1月現在)の具体的なモデル2製品について説明します。まず2014年1月に発表になったFlashSystem 840です。

まず、既存モデルから更に高速なシステムになりました。最大110万IOPSを実現しています(前世代モデルと比べて約2.2倍)。

次に、大容量化と容量構成の自由度があがりました。具体的には、3つのフラッシュ・モジュール・タイプの選択(1TB or 2TB or 4TB)が可能で、きめ細かい容量構成が可能です。4TBモジュールx12枚の最大構成で48TBの容量を使用することができます。

フラッシュ・モジュール・タイプ 1 TB
フラッシュ・モジュール枚数 2 4 6 8 10 12
物理容量 2.75 TB 5.50 TB 8.25 TB 11.00 TB 13.74 TB 16.49 TB
VSR 実効容量(*1) 2.06 TB 4.12 TB 6.18 TB 8.25 TB 10.31 TB 12.37 TB
2D RAID 実効容量(*2) N/A 2.06 TB 4.12 TB 6.18 TB 8.25 TB 10.31 TB
フラッシュ・モジュール・タイプ 2TB 4TB
フラッシュ・モジュール枚数 2 4 6 8 10 12
物理容量 21.99 TB 27.49 TB 27.49 TB 32.99 TB 43.98 TB 54.98 TB
VSR 実効容量(*1) 16.49 TB N/A 24.74 TB 32.99 TB N/A 49.48 TB
2D RAID 実効容量(*2) 12.37 TB 16.49 TB 20.62 TB 24.74 TB 32.99 TB 41.23 TB
  • (*1) チップレベル障害を保護するVSR(Variable Stripe RAID)を実効した使用容量
  • (*2) チップレベル障害のVSRおよびモジュールレベル障害のシステムRAIDの両方のRAIDを実効した使用容量

非機能要件としては、保守容易性が向上しました。これまでのモデルではフラッシュ・モジュールなど一部のコンポーネントを交換する際に機器の停止が必要でしたが、モデル840からフラッシュ・モジュールなど各コンポーネントを全てオンラインのままで着脱できるようになりました。つまり活性保守(コンカレント・メンテナンス)が可能になりました。そのため、冒頭のモデル710とモデル840の写真でわかるように、これまでのモデルは1Uタイプでしたが、2Uサイズの設計になりました。ファームウェア更新も以前のモデルでは再起動が必要でしたが、モデル840からはオンラインでのファームウェア更新が可能になりました(コンカレント・コード・ロード機能)。

他には、IBMの他のディスク製品(XIV、Storwize V7000など)で評判の良かった視覚的に判断しやすい管理GUI(日本語対応)を採用しています。

それから、セキュリティ機能の強化ということで、フラッシュ・チップの暗号化機能が追加されました。

FlashSystem V840の特長

FlashSystem V840

FlashSystem V840は、モデル840が発表された1カ月後の2014年2月に発表された製品です。フラッシュ・ストレージ(FlashSystem840)と制御装置(IBM SAN Volume Controller)を統合して利用することで、高性能と高拡張機能の両面を実現するソリューション製品になります。

これまでのFlashSystemシリーズは高速性のみを追求したコンセプトの製品で、通常の企業向けディスク装置に実装されているスナップショットやリモートミラーその他拡張機能を一切サポートしていませんでした。この点を補完する位置づけで発売されたのがモデルV840になります。モデル840単体では不可能だったスナップショット(FlashCopy)機能やリモートミラー機能など様々なコピー機能をサポートしています。他にもストレージ仮想化機能や自動階層化(EasyTier)やリアルタイム圧縮(Real-time Compression)機能などもサポートしており、これら機能と併用することで、フラッシュメモリーをより効率的にシステムに活用することが可能です。これら拡張機能については第5回でも説明する予定です。

モデルV840のもう一つの大きな特長としては、スケールアップ構成およびスケールアウト構成を組むことが可能なことです。これまでのモデルは、1システム1筐体が最大構成で、拡張筐体やクラスター構成などはサポートしておりませんでした。しかしモデルV840は、配下に、FlashSystem 840を4台まで接続できます(スケールアップ構成)。また、V840を並列(クラスター)接続して、最大4クラスター構成が可能です(スケールアウト構成)。これによりIO性能と使用可能容量をさらに強化することが可能です(最大2,520,000IOPS、最大使用可能容量320TB)。

V840 スケールアップ&スケールアウト構成

次回はFlashSystemを使ったソリューションや事例、Blue3の提供しているアセスメントサービスなどを紹介します。



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