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スモールデータや外部データから始める

田中一男

ソリューション事業部
副事業部長

田中 一男


まずは、トップバッターとして田中から口火を切らせていただきます。今回はビッグデータ分析の始め方について参考になる考え方を紹介します。ビッグデータに関する話題をと言っておきながら、いきなり『スモールデータ』というタイトルから始まるのですが、まずは以下をお読みください。

5月に日本語版が出版された Thomas H. Davenport著「データ・アナリティクス 3.0」(原題: Big Data at Work -- Dispelling the Myths, Uncovering the Opportunities)によると、ビッグデータの活用については業界ごとにその活用の進展度合いについては差が出てきていると言う。Webサービス業界のように既にデータ指向の強い業界や、小売、旅行、運輸、テレコム、メディア、保険、クレジットカードなどのようにビッグデータによって構造が一変する可能性の高い業界ではビッグデータの活用が進んでいる。一方、エンターテイメント業界では勘や経験に基づく意思決定が幅を利かせていたり、電力業界ではスマートメーターやスマートグリッドがこれからという状態であったりと、データ活用が遅れている。また、電子カルテの普及や検診データの標準化が遅れているヘルスケアや、そもそも顧客が少なくデータも少ない、あるいは、エンド顧客から遠い存在のB2Bの業界では、データ活用に問題を抱えていると言う。

これは米国での状況であり、かつ、米国でもまだ大半の企業でデータ活用が進んでいないと言うので、日本では一部の企業を除いてほとんどの企業でデータ活用が進んでいないと思われる。また、ダベンポートは、そのようなビッグデータ導入の初期段階では、自分の手元にどのような種類の大量データや、非構造化データがあるのかを確認するという『データからのアプローチ』を採ったり、現在の戦略から考えた場合にどのようなビッグデータがあれば役立つのかを検討するという『ニーズからのアプローチ』を採るべきだと主張している。ビッグデータが自社のビジネスや業界において、どのような発展を見せるのかを見極め、そこにあるチャンスを追いかけようという意識やモチベーションを社内に醸成することが重要とも述べている。

・・・と言われても着手までに何をどうすべきか途方に暮れてしまうという企業も多いと思う。実際、多くの企業においては、高度な分析やマイニングを必要としない、少ないデータ量のスモールデータ環境でビジネスを行っている。B2Bの企業、たとえば、自動車部品製造のような極度に専門化した市場を相手にしている企業の顧客数は数えるほどであるし、扱うデータと言えば売上や出荷のデータくらいという場合がある。ダベンポートはそんな業界に対しては、「製品やサービス内へのチップやセンサーの埋め込みや、顧客企業の社員からデータを収集していくこと」を解決の方向性としている。PwC Strategy&社(旧 Booz & Company社)のビジネス戦略ニュースサイト strategy+business にポストされた記事 "When Big Data Isn't an Option" には、『ビッグデータという選択肢がないときには』というタイトルで、スモールデータしか持ち合わせていない企業でもそのデータを活用してビジネスを改善するやり方が書かれているので紹介しておこう。(以下、引用部分は「」で囲む。なお、原文は英語で、以下はあくまで超訳です。)

「ある大手飲料メーカーでは、バーやレストランやイベント会場に対する売上を増大させようと考えた。そのメーカーでは定評のある調査会社からバーやレストランなど10万軒以上についての調査データを長年に渡って買っていたが、その調査はあくまで飲料業界全般での利用を想定した標準的なセグメント分類を用いたものであり、そこからそのメーカーにとって十分な洞察が得られるようなものではなかった。そこでメーカーは自社のニーズにカスタマイズしたソリューションを築き上げるためにスモールデータから始めることにした。」

「バーやレストランを訪問して、その店の常連の消費パターンを観察し定性的に分類していくことによって、自社ですぐに活用可能となる各セグメントとは何かを決めていった。次のステップでは、その分類セグメントを使って各セグメントにどれだけのバーやレストランが入るのかというデータを増やしていった。次に、そのデータから観測される属性をベースにしたアルゴリズムを開発し、営業担当も交えて、調査会社からの全データを新しいセグメントに分類し直した。最終的には、メジャーな各セグメントに対して最適に仕立てた、製品の組合せ、価格設定、マーケティング・プログラムをデザインすることにより、売上増大とシェア獲得を実現した。」

このようにスモールデータ分析から始めるにあたって必要なこととして以下の3つを挙げている。

  • 意思決定においては事実に基づくことを徹底すること(事実に基づく意思決定は、市場をリードする企業にとって競争優位の源泉となる)
  • 実践から学ぶことに積極的になること(トライアル&エラーはその企業にとって有益な経験となり、小さな成功でも大きな自信につながる)
  • 少しでもいいから創造性を発揮すること(エンド顧客との対話などによって、リッチなデータを得ようとするには企業はクリエイティブになる必要がある)

また、同じく strategy+business の記事 "Looking Outward with Big Data: A Q&A with Tom Davenport" というインタビューの中でダベンポートは「ビッグデータの素晴らしい点の一つは、ソーシャルデータやマクロ経済データや気象データなど、多くのデータが社外から収集することができるということがある。企業は、外部環境における変化や機会や脅威について目を向け、事業計画や意思決定のプロセスにこれらの外部データを活用できるようにならなければならない。市場・顧客・競争相手の動向に目を向け、外部環境を分析する能力こそが他社との差異化の源となる。データ分析とデータ管理の能力とスキルを身につけ、データからより良い意思決定ができるようにならないといけない。」と述べている。

以上をまとめると、自社にどのようなデータがあるのか、あるいは、どのようなデータがあればビジネスに活用できるのかを真剣に考え、データ分析をスモールスタートさせていくと、企業はそこから生まれた洞察の価値を認めるようになり、やがて資金の自己調達も可能となってきて、もっと大きなデータセットや、もっと進んだ分析技術に投資することが可能になってくるということである。また、自社のデータだけでなく、たとえばTwitterなどのソーシャルデータや、国や自治体などから提供されるオープンデータを組み合わせて活用していくことを考えると、その組合せから得られるデータは自然と大規模なデータとなっていく。

ビッグデータという名称やブームに囚われず、このトレンドが世の中にもたらす変化の兆候を読み取って、うまく自社のビジネスに活用していくのが良いのではないでしょうか。我々は微力ながらお客さまのビッグデータの活用をご支援させていただきたいと思っています。