Microsoft AI Day Osaka 観戦記

Microsoft

2024.04.23

去る2024年4月16日(火)に行われました、Microsoft AI Day Osakaに参加しましたので、簡単に共有させていただければと思います。

Microsoft AI Day Osakaの参加目的

Microsoftによると、このイベントに参加することで、

  • 生成AIによる新たな機会を発見し、最新のイノベーションについて、いち早く学びます。
  • マイクロソフトのエンジニアや業界エキスパートとつながることができます。
  • 生成AIによりアシストされたワークフローを活用して、コーディングプロセスを加速し、シンプルなコード提案から完全なアセンブリまでを学びます。

というようなメリットが得られる、ということのようです。(参照:Microsoft Events - Microsoft AI Day - Osaka

私としては、AIをエンタープライズとして提案する場合に必須な、AI基盤の技術的なアウトライン構成やRAG実装のヒントなどの情報収集の目的で参加しました。また関西を拠点にされるMicrosoft Most Valuable Professionalのメンバーにお会いすることも、目的のひとつでした。

Microsoft AI Day Osakaの第一印象

まず、完全なオフライン(対面方式)のイベントであり、ハイブリッド形式とはなっていませんでした。対面オンリーによる濃密なコミュニケーションが期待できるような建付けになっていたように、思います。実際のところ、最初はやや少なめな印象(入場前の待機人数が少ない)感じでしたが、13:00のKeynoteセッションの前には、多くの方が会場に陣取っておられました。ハービスホールOsakaの3つのルーム(最大1,600名)が、イベントの後半ではかなり埋まっている状況だったと思います。

Microsoft AI Day Osakaの第一印象

こういったイベントにつきものの「ハンズオンセッション」が今回はありませんでした。もしかしたら予算の都合もあるのかもしれませんが、ユーザー同士 or Microsoftエンジニアとのつながりを重視して、こうなったのかしら、と個人的には思いました。ちなみにこの状況でも、少なくないMSMVPの方が見えており、近況や技術的意見交換など、当初の目的を、早速達成することができました。

3つのルームのうちの大きい部屋には、Azure AI関連サービスごとのブース(15~6ぐらい)ができていて、マイクロソフト社員が気さくに質問に答えていて、いかにも大阪らしかったです。ブースの前にグッズが山積みされており、マイクロソフトはいつも大盤振る舞いですなぁ、などと思ったりしたものです。

セッションについての情報は、今回はすべてオンライン形式で紙媒体はありませんでした。詳細はMicrosoft AI Day Osakaをご覧いただくといいかと思いますが、Aセッションは開発者にかなり寄った内容で、Bセッションが比較的一般向けの内容だったと思います。

Keynoteセッション

Keynoteセッションでは「開発者のための次世代AI」というお題で、バズワード化しているAIの「次の一手」をエンタープライズへのフォーカスで、具体的に語っていただいたという印象でした。

これからのトランスフォーメーション

AI基盤におけるトランスフォーメーションとは、

  • 1.まずクラウド化
  • 2.次にDX化
  • 3.最後にAIトランスフォーメーション

をAIのためのデータを基盤として構想していく必要があるということでした。

これからのトランスフォーメーション

AIニーズとAI成熟度

現状では、チャットボットなど質問への回答を得るためAIを「使っている」ケースが多いですが、エンタープライズ環境でのプラットフォームの整備や、(RAGなど)具体的な実装を「創っていく」ことが必要です。これをAIニーズと呼びます。
一方、AI戦略の理解と構築(必要なAIデータや基盤の準備)といった「AI Ready」を起点として、明確なAI戦略を推進(生産性向上/独自LLM/複雑なAIユースケース)していく「AI Lead」に移行していく必要があります。これをAI成熟度と呼びます。

これをタテヨコ化して自分がどの立ち位置にいるのか、どの方向に進むべきなのかが検討可能になる、という話は、自組織の客観化や俯瞰化が可能になる、よい話だったと思います。

AIニーズとAI成熟度

事例:JR西日本

事例として、JR西日本様の社内プロジェクト「ミライ」と、そこで作製された「Copilot for 駅員」というアプリが紹介されました。UIに駅業務に関する様々な質問を入れると、Copilotが答えてくれます。駅員の多岐にわたる業務知識を補うためのソリューションということでした。

Copilot for 駅員

実際のアーキテクチャも紹介されましたが、実はかなり複雑で、データ情報の一元化のためMicrosoft Fabricが利用されていました。社内で情報が様々な場所にあるということで、アーキテクチャとして、有効性の高さを感じました。

構成イメージ

AI DXのためのツール

MicrosoftではAI対応プログラムを作成するツールとして、市民開発者向けでローコードでの対応が可能な「Microsoft Copilot Studio」と、開発者向けでプロコードでのスクラッチ開発を行う「Microsoft AI Studio」の2つを用意しているということでした。
Microsoft Copilot Studioでは簡単にAIアプリを作成する一方、Microsoft AI Studioの目的は「インテリジェントアプリ」を作成するのが目的だということが、改めて認識されました。

AI DXのためのツール

Function Calling

複雑なAIアプリでは、AIがプロンプトを解釈した後、指示をタスクに分解して適切なモデル・データを呼び出す、という動作が入ります。この際Azure OpenAI Serviceに接続する場合Function Callingを使用するとよい、ということでした。(参考:Azure OpenAIでFunction Callingを使う! (zenn.dev)

Function Calling

生成AIの期待と適用先

これは割と聞かれると思うのですが、生成AIのユースケースとして

  • 設計
    • 要件定義書作成サポート
    • 要件・設計書検索
    • 機能・非機能設計チェック
    • UI・UXデザイン案
  • 開発
    • コード自動生成
    • バグ修正提案
    • コード変換
    • Code to Doc
    • リファクタリング
  • テスト
    • テストケースの自動生成
    • 品質保証支援(影響範囲)
  • 運用
    • 予測保守
    • ナレッジ検索

生成AIの期待と適用先

といったものがあげられていました。ここでのキーワードは「面倒くさいことはAIにやってもらう」という話です。情報を授かる=先生業ではなく、作業時間や内容の精査にコストがかかる作業を丸投げ、というイメージです。驚いたのはUIデザイン案(というより変換)の作業で、ビットマップ形式のUI画面キャプチャをAIに与えると、それを見て要素(テキストボックスやラベル等)を判定、コード化して出してくれる、などということができるのです。またC#は分かるがPythonが分からない、学習コストを下げたい、というようなところで、最初からコード変換で対応可能といったテクニックもあったりするようです。

生成AIの利用アプローチ

生成AIをどうやって使うのか?について、現実解といえそうな「多段で利用する方法」が示されていました。

  • インプットをAzure OpenAI Serviceに投入、中間生成物を作成する(エンジニアが利用可能なコード等)
  • 中間生成物をエンジニアがCopilotの助けを借りて、最終成果物を作成する

生成AIの利用アプローチ

本当に面倒くさいところはAIにやらせて、エンジニア(人間)は大事なところを決める、というコンテキストが見事に反映されていますね。

Keynote全般で素晴らしかったのは、アーキテクチャ確認→必要要素を項目化→具体的実装方法の紹介、といった落とし込みと詳細な具体例がきちんと示されていた点でした。従来のMicrosoftのイベントでは、Keynoteでは「製品コンセプトのすばらしさ」しか語らないケースが多くて、AIのような利用ロールモデルがエンジニア次第のソリューションだと難しい、そう思っていたのですが、その点を見事に解決した、素晴らしいセッションだったと感嘆しました!

各セッション一口メモ

今回私が受けたセッションはBが中心だったのですが、どれも有意義で大変面白かったです。Microsoftの中の方に伺ったところ「Microsoft AI Day Tokyoで評価の高かったセッションを選りすぐりました!」とおっしゃっていたので、改めて納得です。以下、順次コメントしていきますが、気になったところだけをコメントしますので、網羅性がないことはご理解くださいね。

[B1] 進化する生成AIの現在 ~ Azure AIで始める生成AI活用

Microsoft AI Studioを利用した、マルチモーダルのAIアシスタント風チャットボットを作成するデモを行っていました。マルチモーダルとは複数のAIサービスを組み合わせて、1つのアプリ(画面等)にマージする技術で、たとえば生成AIによる音声と画像を組み合わせ「口元が動いてしゃべるキャラクター」を実現できます。現時点で生成AIでそこまでできるということ、Prompt FlowというAIワークフローを使うことで、簡単に実現できるということでした。
実事例として、薬剤師さんと患者さんの会話を録音し、その内容を解析して特定の報告形式に編集・エクスポートするというアプリの紹介もありました。

[B1] 進化する生成AIの現在 ~ Azure AIで始める生成AI活用

[B2] Azure AI StudioでRAGアプリケーションを構築するためのプロンプト フロー

Prompt Flowのより詳細な使い方についての、セッションとなります。Prompt Flowを数多くのAIツールの一つと見立てて、RAGを実装するうえでのデザイニングや個々のサービスの概要が話されました。実際に手を動かしてAIアプリやプロンプトを書いている方向けの内容でした。話す内容が相当に濃かったため、「実際のサンプルを置いているので、自分で構築して試してほしい」ということでした。

[B2] Azure AI StudioでRAGアプリケーションを構築するためのプロンプト フロー

[B3] 生成AIによるデジタル戦略推進に向けた挑戦 ~高頻度で社会に対する新たな価値や変化を創出~

Keynoteで登壇された、JR西日本のDXプロジェクトで、実際に作成されたAIプログラムの事例紹介と「中の人はどう思っているか」というセッションでした。
生成AIアプリへの取り組みを全社レベルでやっている、という高い意識をお持ちの会社です。
具体的には高圧の電気工事を行う際のリスク情報抽出に使用する「AI ある リスク提案くん」というわかりやすい名前のツールと、Keynoteで紹介済みの「Copilot for 駅員」の2つでしたが、前者は社内自製、後者は外注で作製したとのこと。
社内アプリの製作にも、業務課題に対して「迅速な情報取得+市民開発によるUX向上」という明確なコンセプトを作り、作成後も「今後の課題」や「ロードマップ」といったPDCAをしっかり回していることが、よくわかりました。また自製と外注はどちらが優れているかではなく、使い分け(高速開発か大規模開発か)が重要とおっしゃっていました。
ちなみに登壇者は社内の企画担当の方で、(業務上は事務職のため)ローコードでアプリを自製できることが本当に楽しいとおっしゃっていました。

[B3] 生成AIによるデジタル戦略推進に向けた挑戦 ~高頻度で社会に対する新たな価値や変化を創出~

[B4] Microsoft Fabricを用いたAI活用のためのデータ分析

すべてのクラウドデータベースを一元的に参照できるMicrosoft Fabricの立ち位置や新機能についてのセッションでした。まず驚いたのは「データのためのOneDrive」という表現でした。確かにその通り!様々なクラウドデータベースを1つのサービスで扱えることと、そのための新機能について、いくつも紹介がありました。機能の数が多くてなかなかとらえきれなかったのですが、「Shortcut to on-premises data」という、オンプレミスデータゲートウェイという機能で、オンプレミスのデータベースをクラウドに公開する機能があると聞き、個人的には興味を持ちました。こちらは現在プライベートプレビュー中ということでした。

[B4] Microsoft Fabricを用いたAI活用のためのデータ分析

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