対談「DX推進と企業プレゼンス~コーポレートコミュニケーションの未来~」(前編)

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お知らせ - 2023.10.04
     

対談の様子

東京大学大学院情報学環教授、並びに国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主幹研究員である高木 聡一郎氏をお迎えして、NTTデータ先端技術 ソフトウェアソリューション事業本部 APテクノロジー事業部 志田 隆弘と「DX推進と企業プレゼンス~コーポレートコミュニケーションの未来~」をテーマに行った対談の模様をご紹介します。

高木教授:昨今、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」と総称されたりしますが、デジタル技術がどういう風に社会を変えているのか、企業がその変化にどう対応し、どう活用してビジネスをやっていくかということがますます重要になってきています。
私は、DXに対する考え方を書籍に「デフレーミング」という形でまとめています。ここには、これから社会がどう変わっていくかという概念や、企業がその中でどのように事業展開をしていけばよいかということを考えるためのフレームワークを記述しており、今まさにそれらを実践的なイノベーションのメソッドとして作りこむことをやっています。
https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798162782
デフレーミングとは、今までのフレーム・枠組みがなくなるという意味の私が作った造語です。
デフレーミングには3つの要素があります。

東京大学大学院情報学環 高木 聡一郎教授
東京大学大学院情報学環 高木 聡一郎教授

  • 1つ目は「分解と組み換え」です。
    既存のその業態の垣根が一旦バラバラになって、そこの中にあったいろんな要素を、もう一回組み換え直していくことです。言い換えると、情報技術の観点と、それからユーザーにとってのエクスペリエンスと、その両面から新しい組み合わせを作り出すことです。例えば送金機能を持つチャットアプリなどもこの新しい組み合わせですよね。業界の垣根を超えたものが出てきているかなと思います。
  • 2つ目は「個別最適化」です。従来1つのパッケージ化された商品を作って、大量に販売するというスタイルであったものが、そのユーザー一人ひとりの事情に合わせてカスタマイズしたり、パーソナライズしたりしながら売っていくことがとても容易になってきたというものです。従来そういうことをやろうとすると、職人さんが一生懸命サイズを測る必要があるなど、とにかく手作業でやらないといけなかったものが、ITの力でそのコストをかけずに作ることができるようになったことで実現されたものです。最近だと生成AIが話題になっていますが、人工知能が一番活躍できる領域ですね。ChatGPTなんかはまさにそのものであり、ひとりひとり質問が違うわけですが、何千万人、何億人という人からのその違う質問リクエストに対して全部違うように答えることができる。それがまさにこのITの力でできるようになってきたということです。
  • 最後は「個人化」です。企業の枠組みの中で働くということがメインであったところから、企業のその枠を超えて、個人個人が個人の看板で仕事をするということがかなりできるようになってきたものです。フリーランスとか個人事業主みたいな形ももちろんそうですし、それだけではなくて、兼業副業みたいな形で、企業に雇用されて働きながらも、そういった第二第三の仕事を持つということもできるようになってきています。また、そうした複数の仕事の兼業だけでなく、例えばYouTubeみたいなものをやっていく中で広告収入がついてくるようなこともあります。いろんな形で個人が今までよりも前面に出て働けるようになった。これは個人個人のキャリアをどういう風に考えていくかという時も重要ですけれども、企業としてもそういった個人とどういう風につながりあって、自社の事業を展開して行くかという観点で重要になってくるかなと思います。

志田:ありがとうございます。確かにおっしゃる通りだと思います。
今回のお題である「企業プレゼンスやコーポレートコミュニケーション」を現在担っている企業のWebサイトについて、そのコンテンツの中身に踏み込む前に、前提としてのWebサイトを準備するお話を少ししたいと思います。
少し前までは、お客様から自前のWebサイトを作りたいという要望をいただいた場合、まずホスティングのためのハードウェアを調達し、それを最適な場所に設置、次にOSをインストールし、それぞれのレイヤー毎にソフトウェアを導入し、最後にようやく実際のWebの画面を作るというようなことをやってきたわけです。これらは、単純なWebサイトでもそれなりの準備と設計と実装が必要で、それを1人でやるのは非常に大変でしたし、大規模のサイトの場合はかなりの人数で実施していたわけです。しかし、今やWebサイトを作るためのプラットフォームみたいなものが用意されており、それを活用すればあとは画面を作るだけというところまで、お膳立てがされています。
10人、20人いないと作れなかったものが、今や1人でできる時代になってきているということをすごく感じています。Webサイトに限らずDXにおいても、これまではお客様にやりたいことがあった場合に、それを実現するためのノウハウをもって複数のエンジニアが多くの固定的な作業と一部の知恵を絞る作業を実施して目的を達成してきたわけですが、今ではある程度標準的なものは自動化されてしまいつつあると言えます。 これまでは“言われたことをその通りやること”が重要で、ITはやることそのものが難しく、そこに価値があったわけですが、最近のお客様からは「価値のあるコーポレートコミュニケーションとは何か」「DXを進めたいけどどうしたらいいか」といった、お客様も我々も解決方法が分かっていないことをご依頼いただくことが多くなってきたという実感があります。

高木教授:昔に比べて個人でできること、1人でできることの範囲は、ものすごく広がっているんですよね。従来一から十まで全部自分たちで作らなきゃいけなかったものが、いろんなパーツなりクラウドなり提供されているものを組み合わせることで大きなことができるようになってきましたし、ライブラリーなどの充実により高度な開発スキルがそれほど必要なくなりつつあり、個人でできることの範囲がものすごく広がってきた。デフレーミングの個人化にも、大きくつながってきているところかなと思います。

企業と企業・企業と個人が双方向に関わるコーポレートコミュニケーション

――単に提供されている仕組みを活用するというものから、業界を問わず、競合関係であってもお互いの利点の方を結び付ける活動も広がっています。

高木教授:単なるリソースの活用から、競合と協業するというような結び付けも加速するでしょう。
例えばAmazonが提供するAmazon PayというサービスはAmazon以外のEコマースのサイトに決済機能だけを展開し提供するというものですが、これをやると、Amazonからすると競合となるECサイトで買い物する人が増えてしまうのではないかという心配があったはずです。
しかし、決済時のユーザー登録や、配送先の設定など、そういったユーザーからすると面倒な手順が全部解消されると、ユーザーだけでなく独自のECサイトを立ち上げられている方々にとってもすごくメリットがあるわけです。せっかく途中まで買い物しようと思っていたのに、最後の決済のタイミングになって新たにユーザー登録が必要だと面倒に感じ離脱してしまう。ところがAmazon Payに対応していれば、ボタンを押せば買えるとなれば、じゃあもう購入しようという風になると、お互いにメリットがありますよね。
今までであれば、これらは「Amazonとそれ以外のECサイトの協業」という単なる協業としてしか捉えられなかった関係ですが、デフレーミングの考え方から言えば、分解と組み換えの関係から大きな価値を生み出しているということだと思います。

志田:決済のシステムって、これまでの技術ですと結構大変なことだったと記憶にありますが、今やその仕組みさえも実現のためのハードルがとても低くなっています。同時に、単に決済だけなら複雑な仕組みを回避して実装する方法も登場しています。決済の仕組みというのは、以前は本当にすべての構成要素がハイエンドなもので成立していたのですが、それを回避し簡易に実現するような仕掛けも現れてきています。
当然こういうことには、チャンスとリスクの両面がありますが、技術の面でみていけば従来できなかった事が簡単にできるということ自体はどんどん進んでいるということであり、参入障壁が下がることになると同時に、「競合と協業する」ことへの必然性が増したと言えるということですね。

――お互いの強みを持ってビジネスを行う「競合と協業する」という戦略は昔からありましたが、最近目立つようになっていると感じます。企業対企業でのコーポレートコミュニケーションが加速していると感じるのは、そういう背景もあるからなのでしょうか。

志田:そうですね。加えて今や企業と個人もそういう状況になりつつあるように感じています。
コンテンツを創出する主体やサービスを提供する主体がいままでは企業だったのが、個人も提供主体となりつつあり、相互のインタラクションによってビジネスが創出されつつあります。企業が企業と手を組むだけじゃなくて、企業はそういう個人で優秀なビジネスをできる人や、個人で優秀な技術者と手を組まなければいけない、手を組むべきというような時代になっていると感じます。

NTTデータ先端技術 ソフトウェアソリューション事業本部 志田 隆弘
NTTデータ先端技術 ソフトウェアソリューション事業本部 志田 隆弘

こうした状況の中で、古いタイプのWebサイトが発信している内容は「僕らはこんな会社です」といったコミュニケーションの仕方を中々乗り越えられない。
今までは、企業と外部とのコミュニケーションとは、自分たちの会社という枠と、ユーザー、顧客、消費者といったステークスホルダーと呼ばれる人たちという2つの枠ぐらいしかなかったわけです。しかし今日ではその2つの枠の間をつないでくれるコミュニティやインフルエンサー的な人、SNS上の一般のユーザーなど、いろんな人たちが関わり、かつ、そういう人たちが付加価値を創出する部分が大きくなってきているんだと思いますよね。

高木教授:情報の流れだけ1つをとっても、例えば従来のメディアを通してだけではなく、いろんなメディア、例えばネットメディアであれば個人のできることは格段に大きくなっています。その個人ができることが大きくなっている中で、双方向のやり取り、エンゲージメントといわれる部分がとても大事になってきていると思います。デフレーミング的に言うと分解して組み換える部分になると思います。
例えば、企業が自社の持つ機能をAPIとして公開し、ユーザーに新しいアプリを作らないか呼びかけ、優秀なアプリに賞金を出す、といった取り組みもあります。
これはディベロッパーマネジメントと言われているものですが、企業の側から見ると外部のディベロッパー個人との関係を構築することこそがコーポレートコミュニケーションであり、マネジメントであるというわけです。

志田:この話を個人の側からみると、「あの企業と一緒にやるとなんか楽しそうだな、面白そうだな」「面白いことが起こるかも」という可能性を感じるからこそ、ここに一連の動きが起こるわけです。つまりは、コーポレートコミュニケーションの1要素としてのブランディングに関わる話です。そう考えると、何をどう発信するかが重要になります。例えば、チャンネルはミックスドになっていっていますが、結局ありきたりな内容にしかならないのでは意味がないですよね。

高木教授:その昔、オープンデータの事例で金の採掘をやっている会社が地盤データを公開して、どこに金脈があるかをみんなで探すというプロジェクトがあり、盛り上がっていました。
データを公開した企業はもともと知名度があったわけではありませんでしたが、取り組み自体が一攫千金を連想させるものなので盛り上がったといえます。
最近では、SDGsに関連して公共的な価値を生み出したり貢献したりするために、自分たちの知識や経験、技術的なスキルを活用したいという人たちが現れ、シビックテックという言葉も生まれています。そのため、必ずしも組織や企業が有名でなくても、そのやろうとしていることに価値を感じてもらえれば参加してもらえることはあるかなと思います。

志田:自分の普段の生活を思い起こしてみると、企業サイトを定常的に見ることはないんです。新しく取引を始めようといったタイミングで、会社の名刺みたいな意味合いでコーポレートサイトを見ることが多いと思います。
そもそも、なぜその会社を探そうと思ったかといえば、今やろうとしていることに対して、ビジネス面、技術面などのさまざまなサポートを提供してくれる企業や人を探している、ということです。今までの流れで言えば、企業じゃなくても個人でもいいですし、もっと言うとその個人と企業、個人と個人がセットになると解決してくれるということも提供できるはずです。
しかし、必ずではないにしろ日本企業で働く方々は自分の仕事のことをあまり外に向けて発信しない傾向にあると感じます。これは企業としてのブランド価値が優先されて、あえて個人がそこに何か発信する必要がないという側面もあるでしょうし、個人の発信によって企業ブランドを傷つけるリスクがあるという理由で企業によっては禁止しているといった側面もあるのかもしれません。
対して、外資系企業の方は自分がどういう仕事をしていて、何に情熱を持っています、といったことを多く発信しているように思います。結果、その人のやっている仕事を通じてその会社を知るみたいなところもあり、日本企業もその部分をもう少し重要視してもいいのではないかと思っています。
会社そのものに加えて、そこで働く個人の成果や熱意などの双方向でコーポレートコミュニケーションが作っていくべきものと考えています。

高木教授:最近では商品でも誰が作ったかやその過程に誰が関わったかなどに価値を持たせることもあり、作っている過程を見せるなどもしていたりしますね。最終的には個人と個人のつながりから生み出される価値が評価される、ということです。
できるものは同じなのですが、実際にその過程を見ると、この商品は良いなとか、その人が作っているから良いなと思うことは確かにありますね。

デフレーミングと合わせて個人化はますます加速していくというのは現場でも直接感じる部分です。企業だけではなく企業の中の個人と、個人のつながりが価値を生み出すというのは浸透していくのではないかと思います。

後編につづきます。

本件に関するお問い合わせ先

NTTデータ先端技術株式会社

経営企画部
広報・KMO推進担当
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