新しい移動体通信方式がもうすぐやってきます。
現時点では、2020年春に現在の方式である4G(第4世代移動通信システム)から5G(第5世代移動通信システム)への部分的な機能移行が始まり、2022年には完全に立ち上がると考えられています。
そこで、この新しい通信方式「5G」について概要を解説するとともに、5Gが目指すべきものとしてIoT環境があり、またIoTに続くAI活用についても考えてみたいと思います。

1.これまでの移動体通信

移動体通信方式は、これまで第1世代(第1世代移動通信システム)から第4世代まで発展を続けてきました。
第1世代「1G」の始まりは1979年にNTTの前身である日本電信電話公社が自動車電話サービスを始めたところからと言われています。よく知られているショルダーホン(社外兼用自動車電話)が1985年に登場し、移動体通信が始まりました。この第1世代では、音声波形をそのまま電波に乗せて通信をするアナログ方式の技術が使われていました。

出所:株式会社ドコモCS東北「携帯電話の歩み」

デジタル方式は「2G(第2世代移動通信システム)」からです。PDC(Personal Digital Celluler)という日本独自の通信方式を用い、1993年にNTTドコモが音声サービスとともに、世界初のデータ通信サービス(2,400bps)を始めました。デジタルデータを取り扱いやすくなったことで携帯メールや各種情報提供の仕組みであるiモード(1999年~)が始まりました。

2001年に「3G(第3世代移動通信システム)」が始まります。初めて世界標準の通信方式IMT-2000(W-CDMA)が確立され、世界中を1台の携帯端末を持ち歩くだけでデジタル通信を行うことができるようになりました。NTTドコモの「FOMA」は世界初の3G商用サービスでした。通信速度も2Mbpsに高められ、写真をメールに添付したり、テレビ電話の利用へと用途が広がりました。

第4世代「4G」に進む前には、LTE(第3.9世代移動通信システム)がありました。これは3Gの通信速度をさらに高速化させ4Gへの橋渡し的な役割を持っていました。通信速度は数十~数百Mbpsの段階的な性能向上を続けてきました。動画配信サービスなどに向け、よりリッチな通信環境が整えられて行き、4G(2012年~)へと移行していきました。

4Gでのもう一つのトピックはスマートフォンの普及です。初代iPhoneの登場は2007年ですが、本格的にインターネット端末として、メール、SNS、Web検索や動画配信、決済処理に用いられるようになったのはLTEや4Gからです。

移動体通信は、このような発展を続けて現在に至ってきました。さまざまなデジタルサービスがモバイル環境で実現されつつある中、「5G(第5世代移動通信システム)」はどのような技術で、どのようなサービス実現を目指しているのでしょうか?

出所:総務省 移動通信分野の最新の動向

2.「5G」はどう成長するか? 支える技術は?

これまでの技術的な流れを考えると、さらに高速・大容量の通信技術の発展が考えられますが、どんな用途に使われるのでしょうか?実は標準化団体であるITU-Rでも、まずこの5Gビジョンの策定から検討が始まりました。4Gにおいて実現されたリッチなマルチメディア環境は、携帯電話から始まった「個人ユーザー向け通信」として、今後4K、8Kなどの高精細画像通信や、VR、ARなどの仮想現実通信などへの発展も考えられますが、ある意味、踊り場に差し掛かったとも言えます。
そのような中で、この先、個人ユーザーに加えてビジネスユーザー向け通信を対象にさらに広く移動体通信が活用されていくと考えられました。実は過去を振り返ると、多くの人に携帯電話が行き渡った先には、“機械に携帯電話を渡す”ことが考えられました。
そうです、自動販売機にPHSを搭載し、缶ジュースが売切れたら自動的に通信を開始し、補充の要求を配送センターに通知する、あるいは自動販売機が壊されそうになった時には近くの警察署に自動的に連絡を入れるなど活用先を広げたこともありました。

さあ、5Gではどのようなことが考えられるでしょうか?
現在の標準化プロジェクトである3GPP(Third Generation Partnership Project)を中心に、次の3つの利用シナリオ(ビジョン勧告ITU-R M.2083)がまとめられました。

(1)高速大容量通信(eMBB : enhanced Mobile Broadband)
(2)超信頼・低遅延通信(URLLC : Ultra Reliable and Low Latency Communications)
(3)多数同時接続(mMTC : massive Machine Type Comunnications)

このシナリオに基づいて5Gで新たな世界を組み上げていくと考えたのです。
この3つの利用シナリオについて、それぞれを簡単に見て行きましょう。

高速大容量通信eMBB

4Gの通信容量としては最大で1Gbpsでした。これが5Gでは20Gbps(下り)、10Gbps(上り)と10倍以上の容量拡大を目指しています。容量の拡大に向けて、通信に使用する電波の周波数を上げ(4G:最高3.5GHz ⇒ 5G:3.7GHz、4.5GHz、28GHz)、帯域幅を広げることで対応します。ただし周波数を上げると、空気中で電波は減衰しやすくなるため、アンテナ集積技術やビーム成型技術などを用いて電波を遠くまで飛ばすようにします。
また電波の直進性を増すために、電波遮蔽物の陰へ回り込みが少なくなるといった問題に対しては、基地局を多くすることなどで対処します。このようにして高速大容量通信を実現します。

超信頼性・低遅延通信URLLC

4Gの通信タイムラグ(遅延)は10~数十msecほどありました。これを5Gでは最短1msec以下を目指しています。使用する電波の周波数を上げ、通信速度を上げるだけでも、遅延時間を短くすることは可能ですが、さらに低遅延・高信頼性を実現するための仕組みとして、「モバイルエッジ処理」という考え方を導入します。

これは簡単なイメージでいうと、発信端末から受信端末までの通信経路を短くするという考え方です。4Gまでの通信経路としては、発信端末→近くの基地局→中央センター→受信端末近くの基地局→受信端末という順に経路が作られていました。通信経路を短くするには中央センターを通さず、端末と端末に近い基地局間(これはネットワーク全体から見るとエッジ(端)として見える)だけで通信経路を確立してしまうものです。ただ、中央センターを省いてしまうと、通信ネットワーク全体として制御できなくなるので、通信を制御する信号と、利用者が必要なデータそのものの通信を分離(Controll / User分離)し、利用者が必要なデータは最短経路を通し、通信制御信号は中央センターを通して制御するという方法をとると、通信全体を制御しながら、利用者が必要なデータを低遅延でやり取りすることができるようになります。
さらに、この考え方を進め、低遅延が必要なデータ通信と、少し遅延があってもよいというデータ通信を分けて取り扱うこと(「ネットワークスライス」という考え方)により、通信ネットワーク全体として無駄なく安定した通信を実現することを目指しています。
ちょっと難しいので図で説明します。

この図では、低遅延が必要な通信経路は赤経路(ミッションクリティカルスライス)で形成され、中央のデータセンターまで問い合わせに行くこと無く、短経路を実現しています。ネットワーク全体はスライス制御装置と、近傍データセンター、中央データセンターのノード制御装置とが通信しながら、ネットワーク全体を制御しています。

多数同時接続 mMTC

5Gでは、同時にネットワークに接続できる端末台数を4Gの場合に比して、100倍に引き上げることを目指しています。具体的には1平方キロメートルのエリアで最大100万台の端末がネットワークに接続できる環境を作り出します。一つの基地局で考えると同時接続できる端末数は条件にもよりますが、4Gでは100台程度でした。これを5Gでは1~2万台の端末からの同時接続を目指しています。
技術としては「Grant Free方式」を使います。Grantとは基地局からの通信事前許可のことを意味し、通常はこの通信許可を得てから端末が基地局と通信を始めるのですが、この事前許可を不要として、多数のデータを短時間に送れるようにしています。

ここまで、5Gで目指す3つのシナリオを支える技術について簡単に示しましたが、ここまでの話で分かるように、単に端末と基地局だけの電波のやり取りだけではなく、移動体ネットワークシステム全体としての最適化が必要になってきます。
例えばC/U分離のお話をしましたが、データ通信をエッジコンピューティングで処理して高速化する際に、制御信号も、基地局と中央センター間も光通信ネットワークでしっかりと結び、高速通信を実現しなくてはなりません。もちろん、吸い上げられたデータを瞬時に処理するコンピューティング環境やストレージ環境も必要です。

すでに現時点で5G方式を商用提供している国も出てきていますが、3つのシナリオすべてを提供はできてはいないのです。また3つのシナリオを支える技術はここで紹介した技術以外にも、さまざまな技術を駆使して、商用化に耐えるシステムとしての完成を目指して、現在も検討が続けられているのです。

3.ビッグデータからIoT/AI活用に向けて

5Gで実現される技術を使うと、どんなことができるのでしょうか?高速大容量通信、低遅延、同時多接続。大量の端末からリアルタイムでさまざまなデータがネットワークに吸い上げられる世界です。少し前からビッグデータという言葉が使われてきました。これまでは、長い時間をかけて溜まったデータをさまざまに分析して何かの知見を得るという考え方でしたが、5Gではリアルタイムにビッグデータが得られる環境になってきます。

つまりリアルタイムで得られるストリーミングデータを瞬時に分析し、端末に送り返してさまざまな事業活動に生かすことができるようになるのです。IoTでデータを集め、人工知能AIで学習/分析をする。5GとIoT/AIを組み合わせることで、新たな世界が広がろうとしています。

ビッグデータ ⇒
何年も掛かって溜めてきたデータから知見を得る。天気予報、企業経営分析、顧客志向分析など

 

5G+IoT/AI ⇒
リアルタイムストリーミングデータ分析から知見を得る。混雑予測、自動運転、遠隔医療など

これまでの静的なビッグデータ分析の世界から、ダイナミックなデータ分析を用いた新たな事業活動、すなわちデジタルトランスフォーメーションの世界が広がるのです。

具体的な変革への活用に向けて活動が進められています。各移動体通信サービス提供会社は、さまざまな企業とコンソーシアムを立ち上げ、それぞれの事業にどう生かすか模索しています。「ドコモ5Gオープンパートナプログラム(2018/02/21~)「SoftBank 5G×IoT Studio(2018/05/11~)」「KDDI DIGITAL GATE (2018/09/05~)」などが始まっており、各コンソーシアムとも数百社のパートナを集め、新たな企画や実証実験を進めています。

また、別の動きとしては「ローカル5G」といった考え方について総務省を中心に検討が進められています。これは、5G方式を、公共移動体通信サービスだけではなく、ある限られた空間、例えば工場とか、競技場など、地域での利用を図ろうとするもので、移動体通信サービス会社だけではなく、さまざまな事業体主体も、このサービスの提供を可能にしようとするものです。

出所:情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会 ローカル5G検討作業班 2019.03

4.おわりに

これまで見てきたように、「5G」は移動体通信ネットワークインフラを出発点として、無線インフラにとどまらず、IoTシステムやリアルタイムで得られるビッグデータから次なる価値を生み出す人工知能AIを組み合わせたデータドリブン社会までを含めて考えると、大きな変革点となることは間違いありません。
一つひとつの基盤技術をしっかりと押えることはもちろんのこと、私たちの社会にどのように活用できるか、考えていくことが重要だと思います。

Writer Profile

ソフトウェアソリューション事業本部
事業推進部
AIビジネスコーディネータ
川村 直毅