第2回「データセンターにおける省エネを考える」
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そもそもデータセンターとは何か
「データセンター」とは、文字通り「データ(情報)が行き来する場所」であり、広義の解釈では電話の交換局なども含まれますが、最近のデータセンターの多くは、主に「インターネット」を支える、情報を格納し、要求に応じた処理を行うための施設といえます。
広義のデータセンターと区別するため「インターネット・データセンター」として『IDC』と呼称することもありますが、ここではIDCのことを指してデータセンターという表現を用いることにします。
このデータセンターですが、情報を格納し、要求に応じた処理を行い、利用者に対して送り出したり、情報を更新したりという運用が大半であることから、データセーター内部の構成要素は、プロセッサーとメモリーと回線となり、機器としてはサーバーとストレージとスイッチです。こうした、いわゆるICT 機器を運用する施設がデータセンターとなります。
このため、根本としてはこうしたICT機器に対しての省エネ対策を行うこととなり、ICT機器ベンダーや、ICT機器の構成要素となるCPUなどの部品メーカーによる省エネ化の取り組みがおこなわれています。
しかしデータセンターとして運用する場合、これ以外にも電力消費が生じますので、そちらの対処も必要となります。
データセンターで必要となる電力
ICT機器を集中運用する施設がデータセンターであるわけですが、こうした設備は、すでに社会インフラの一部であり、24時間365日連続して運用が行われなければなりません。
つまり、落雷等によって瞬間的に停電状態となる、いわゆる「瞬断」や、変電設備のトラブルなどによる「停電」といった状況が発生しても、データセンターは運転を続けなければなりません。
停電に対して、多くのデータセンターではバックアップ用に発電機を用意しています。いわゆるGTG(Gas Turbine Generator)などと呼ばれる設備です。
なんらかの事情により商用電源が停止して、停電状態となった場合、データセンターでは、素早くこのような発電機を起動し、電力を確保するように設計されています。発電機の起動時間はわずか数分なのですが、データセンターをインフラとして考えた場合、発電機が動き出す数分間の運用停止も許容できません。
このため停電が発生してから、発電機が起動するまでの数分間、データセンターの運用を継続するために用意される設備がUPS(Uninterruptible Power Supply)と呼ばれる無停電電源装置となります。UPSは、落雷等で発生する瞬断への対策も兼ねています。
計画停電であればともかく、トラブルなどによる停電は、いつ発生するかわかりません。このためUPSは常時運転させておく必要があり、ここでも電力の消費が発生してしまいます。
データセンターの省エネを考えた場合、こうした「信頼性を担保するための追加設備」で消費される電力の削減も必要なものとなりますし、実際無視できない量が消費されています。
UPSの問題点
UPSの目的を簡単に言えば「バッテリー」です。商用電源が停電などによって停止した際に、自家用発電機を起動するまでの時間をしのぐために用意するバッテリーとなります。
ですが、バッテリーは「交流」で蓄電できません。電気を溜めるためには一時的であれ、直流を用いる必要があります。中には円盤の回転運動でエネルギーを蓄えるフライホイールUPSというものもありますが、騒音の問題と地震などの振動に弱いといわれ、日本ではあまり用いられていません。こうした背景から、少なくとも日本ではUPSのために、いったん直流を用いるようにしています。
しかし、最終的に電気を消費するICT機器群が、おおむね交流電源を用いることから、直流を交流に再変換して供給することになります。ここに大きな課題があります。
交流で供給される商用電力を、いったん直流に変換し、再び交流に戻すようになると、『変換損失』が少なくとも二か所で発生してしまいます。
このため、通常はUPSを迂回させて、商用の電力を直接ICT機器に供給しながら、停電の際には高速でUPSに切り替える方法も考えられます。無論、切り替えのためのほんの一瞬は電力の供給が停止するのですが、この数m秒についてはICT機器の方で耐えてもらうようになっています。しかし、この切り替えに失敗することもあるため、一般的にはUPSを二重化するなど冗長構成を用いるなどしていて、電気的な効率を上げようとすると、複雑な構成を余儀なくされます。GTGが起動するまでの数分間を保護するために、大規模な装置が必要になってしまっているのが現状です。
しかも、交流ですので周波数や位相の問題があり、停電が復旧して商用電源による電力の供給が再開された場合においても、切り戻し作業に細心の注意が必要となります。周波数が一致していなかったり、周波数は同じでも位相が同期していなかったりする状況では、切り替え時に波飛びが発生し、最悪ICT機器が停止してしまうこともあり得ます。
UPSの目的は時間稼ぎ
UPSを用いた場合、シンプルに構成すると電気の無駄が増大し、電力の効率を上げようとすると信頼性が低下するので、これを回避するために構成が複雑になってしまいます。UPSを考える場合、電気の損失を犠牲にしてシンプルさをとるか、電気の損失を考慮に入れて複雑な構成を許容するかという選択を行うことになります。
しかしよく考えると、サーバーやスイッチといったICT機器は、直流の電力によって動作しています。交流に再変換する理由はありません。ようは、停電などの際にデータセンターとして行っているサービスが停止しないようにできれば、手段は何でもよいのです。いままでは、この手段としてUPSを選択していたというだけの話でしかありません。「UPSありき」ではないのです。
このため、データセンターに供給された交流は、直後に直流に変換して、以降のバッテリーやICT機器群に対しては直流のまま扱えるようにすれば、信頼性を気にせずに無駄な変換損失も削減することが可能となります。
これがHVDC(High Voltage Direct Current)の基本的な考え方となります。
シンプルに作ろう
HVDCの実現方法には、いくつかの種類がありますが、NTTデータ先端技術で推奨している方式は「いかにシンプルに実現するか」という観点で作り上げたものとなっています。
電子工作を行った経験がある人なら、一度は電源回路を作ったことがあると思います。もっともシンプルな電源回路は、商用100Vの交流をトランスで電圧を下げ、ダイオードブリッジで全波整流したのち、電解コンデンサーで平滑して三端子レギュレーターで必要とする直流の電圧を生成します。HVDCも動作原理は同じです。
ただし、平滑に使用する電解コンデンサーは、いわゆる有寿命部品で保守対象となりますので、できる限り使わない方が信頼性や保守性が向上します。このため、コンデンサー成分で平滑していたものをコイル成分に置き換えたものが、三相変換のトランスです。三相の交流で入力される電力を、デルタの三相とY(もしくはスターという)の三相といった、合計六相の実効電圧265Vの交流に変換します。この合計六相の交流を全波整流することによって「なんとなく直流」を作り出します。
そして、この「なんとなく直流」となった、いわゆるHVDCの電力を、各々のサーバーラックに搭載された、三端子レギュレーターに相当する「集中電源装置」に送り、必要とする電圧に変換することによって利用するようになっています。
なお、コンセプトはシンプルですが、HVDCとして扱う電圧は「危険電圧」となりますし、直流であるため「アーク」などの問題も生じてきますので、こうしたことに対応するための、多くのノウハウが含まれています。
このように、データセンター内の給配電系を直流化することによって、直流から交流への変換部分を削減し、その分の電力の無駄を減少させることができます。
HVDCのさらなるメリット
HVDCでは、サーバーラックに対する電力の供給を直流で行います。直流は交流と異なり、周波数や位相を気にする必要がありません。
停電などが発生した時の切り替えは、ダイオード接続を行っておけばスイッチも必要なく、勝手にバッテリーからの給電に切り替わってくれますし、復旧時においても、なにも気にすることなく切り戻しが行われます。
バッテリーは基幹の給電用電線にダイオードで接続すればよいだけのことですので、端子さえ用意しておけば、いくらでも増設が可能ですし、配電系が直流であり、交流に再変換するポイントがありませんので、バッテリーは「どこに配置してもよい」ということもいえます。つまり分散配置が可能となるのです。これには「必要となる部分に対して手厚く保護」という構成が可能になるということです。従来のように「猫も杓子も一括で保護対象」という無駄もなくせます。
このように、構成をシンプルにすることによって故障の発生確率を低下させ、保守や増設、改版を容易にしたうえ、設備も小型化可能ということになります。
乱暴な言い方をすれば、UPSにおける直流から交流に変換する部分を撤去してしまうということですので、そのための場所を、変換ロスで消えていた電力を用いて追加のサーバーラックを設置するということも可能となります。つまりデータセンター事業者から見れば、従来と同じ敷地、電力消費でより多くのサービスを提供できるようになりながら、保守は楽になるということともいえます。
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