前回、デジタルトランスフォーメーションの概念について紹介し、代表的な事例について解説しました。デジタルトランスフォーメーションは、目の前のさまざまな業務を、単にデジタル技術で置き換えるという行為ではなく、業務そのものを根本から見直し再構築する、その際に効果的にデジタル技術を活用し、またデジタル技術の進歩と共に業務改革を更に推し進めていくという、業務改革とデジタル技術の相互関係の無限ループを回すことで、豊かな社会を築いていくというお話をしました。
今回は、このデジタルトランスフォーメーションを更に深く理解するために、その役割や位置づけを、これまでの社会の進展とともに考え、さらに今後、どのように進めて行く必要があるのかを考えてみたいと思います。
「Society5.0」という国が作ったキーワードがあります。図1は内閣府が作成した資料ですが、これまでの人間社会の形態の進展を表しており、今後の新たな社会としてSociety5.0の時代に進んでいくということを表しています。
図1 社会形態の進展Society 5.0へ 注1
狩猟、農耕、工業の時代を経て、半導体の電子立国、コンピュータ技術の開発、通信ネットワークの構築を推進し、情報を流通させることにより豊かな社会を築いてきた時代がSociety4.0と位置付けています。そしてSociety5.0が今後の進むべき新たな時代です。デジタルデータを活用しながら、更に豊かな時代を切り開く時代です。これとは別に「第4次産業革命」という産業の時代を表すキーワードも良く耳にします。産業を支える技術基盤として、古くは蒸気機関の発明で始まった第1次産業革命がその後、モーターなどの電機技術に置き換わり、さらにコンピュータ技術の時代を経て、今後のデジタル技術の活用による第4次産業革命が起こると定義しています。図2は経済産業省が作成した資料ですが、Society5.0と第4次産業革命の関係を示した図になっています。
図2 Society 5.0と産業革命の変遷 注2
Society5.0を支える産業領域の考え方としてはConnected Industriesがキーとなり、人とモノ、企業などのさまざまな“デジタルデータ”のつながりによる、業務の革新、新たな付加価値創造で豊かな社会の形成につながるとしています。
まさに、現時点がデジタルトランスフォーメーションに突入すべき時点であると認識できます。では、実際にデジタルデータによるつながりを実現し、デジタルトランスフォーメーションを支えるには、技術サイドとしてはどのような対応が必要になるのでしょうか?以下に代表的な5つの対応を見ていきたいと思います。
(1)デジタルデータの爆発的な増加とクラウド・ハイブリッド対応
今後、デジタルデータは爆発的に増えます。IoT(Internet of Things)が唱えられ、さまざまな人・モノがネットと接続し、そこで生成されるデジタルデータが整備された光ファイバ通信網や第5世代移動体通信(5G)方式により吸い上げられ格納・蓄積されることになります。しかも、扱われるデータの種類としては、これまでの業務処理で使われていたWordやExcelデータのような構造化データとは対照的に、TwitterやInstagramに代表されるようなメッセージ系・画像系の非構造データが、指数関数的に増え続けています。この非構造化データは構造化データに比べて単位当たりのデータ量が多くなることもあり、今まで個別の企業や団体のそれぞれで設置していたファイルサーバーでは限界が来ることは目に見えていて、クラウドセンターの利用、あるいは既存ファイルサーバーとクラウドのハイブリッド利用が必要になってきます。
図3 デジタルデータの爆発 注3
(2)攻めのITに求められるマイクロサービスアーキテクチャの提供
デジタルトランスフォーメーションにおいては、スピードがビジネスの命になります。
如何に素早く新たなニーズに応えるデジタルの仕組みを提供できるか?その為には、従来の大きな一枚岩のアーキテクチャではなく、小さなサービス単位でのアーキテクチャの組み合わせで刻々と変化するニーズに柔軟に対応する必要があります。Web等で培われたこの技術が活躍します。
(3)バイモーダル化するシステムへの対応
これは、今回のコラムシリーズの後でも話題にしますが、すでに企業や団体では旧来のITシステムを導入しており、これを一から作り直すことは考えにくいため、新しくデジタル時代に対応したシステムの両方を同時に運用していく事が求められます。図4で示す、さまざまな属性で異なる方向を向いたシステムの同時運用が求められてきます。
図4 システムのバイモーダル 注4
(4)セキュリティへの量的、質的脅威増加に対する対応
デジタルを扱う上では切っても切れない視点です。世界的に検知されたマルウエア数の推移は2005年辺りから指数関数的に増加傾向を示し、またDDoS攻撃、メールアタックなどへ分類できない新種の攻撃技術が年を追うごとにその割合を増やしています。これらの新種攻撃への対応を進めて行かざるを得ません。
(5)急速に導入が進む人工知能の活用検討
2012年から第3次ブームが始まったとされる人工知能技術は、その後に注目を集め続け、自動車の自動運転や無人コンビニなどでの実用化が進展しつつあります。集まった大量のデジタルデータから傾向や特徴を見出し、価値に変えるには、人間の限界を超えて処理が期待できる人工知能の有効利用は欠かせません。
以上の技術的な対応がデジタルトランスフォーメーションには欠かせません。今回はデジタルトランスフォーメーションの社会的な位置づけと、それに必要な技術対応についてご紹介しました。次回はデジタルトランスフォーメーションを進める際の留意点と、どのようなデジタル社会を作り上げていけばよいのかを考えていきたいと思います。
以上です。
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- 注1)内閣府第5期科学技術基本計画書より
- 注2)経済産業省ものづくり白書(2018年版)より
- 注3)https://www.linkedin.com/pulse/importio-investing-future-data-martyn-holman
- 注4)Gartner. 2 Speed IT を元に作成
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