AI活用ルール策定のススメ(基礎編)

セキュリティ

2024.05.31

     

はじめに

AI(Artificial Intelligence:人工知能)技術の急速な進歩により、革新的な様々なサービスやアイディアが連日のように生み出させる時代になってきています。
そのインパクトの大きさは「産業革命に匹敵するものだ!」とか「インターネットやスマートフォンを超える!」などのような意見も見受けられるような状況になっています。
あまりにも急速に進化したことでルール整備が追い付かず、そのリスクも未知数であることから、国家として対話型AIを一時的に利用禁止にしたり、様々な独自規制、独自基準を国や国際機関、団体等が作成したりしている状況にもなっており、AI利用についてルールを作ろうとしても何を基準にしていいのかよくわからない状況が続いていました。
そんな中、日本でもAI利用については議論が繰り返され、いくつかのガイドライン等が混在する状況にありましたが、統合的に見直しをかけた「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」[1]が新たに総務省、経産省から2024年4月19日に発表されました。
今回はこのAI事業者ガイドラインを参考にしながら、組織としてどのようにAIを利用し、どのようにルールを作っていくべきか基本的な部分を中心に説明したいと思います。

ナンシー
ナンシー
リスク管理部門責任者。口癖はジャスティス。コスプレが大好き。
タコちゃん
タコちゃん
ザリガニ事業部のベテラン技術者(なんでも屋)。お酒が大好き。
イカ君
イカ君
イロイロとこじらせたまま中年になってしまった謎のイカ。ゲームが大好き。
ナンシー

AI利用について問い合わせが来ているわね……
そろそろポリシーレベルでもいいから基本ルールが必要ね……

タコちゃん

なんか最近(2024年4月19日現在)AI事業者ガイドライン[1]ちゅういいもんが出たらしいやで。コイツを参考にしたらどないだ?

ナンシー

そうなの?
ちょっと説明してくれない?イカ君も知らないでしょ?

イカ君

知らないし、よくわからない……

タコちゃん

しゃーないな……じゃポイント絞ってサクッと説明するわ。

AI事業者ガイドラインってなんだ?

AI事業者ガイドライン[1]は、これまで政府機関が個別に作成していたAIに係るガイドライン等を統合的にまとめた内容になっており、AIを安心安全に活用するための政府指針と考えてよいかと思います。
AI事業者ガイドラインの冒頭では、「日本におけるAIガバナンスの統一的な指針を示す」とか、「AIを活用する事業者(政府・自治体等の公的機関を含む)が安全安心なAIの活用のための望ましい行動につながる指針(Guiding Principles)を確認できるものとしている」というような内容が記載されており、官民問わず日本でAI開発・提供・利用するにあたって、参考にできるガイドラインと考えてよいかと思います。

図1:「AI事業者ガイドライン」の策定方針

図1:「AI事業者ガイドライン」の策定方針[2]

AI事業者ガイドラインの構成

AI事業者ガイドラインの構成は、表1の「AI事業者ガイドライン構成」のようになっており、大きく分けると「主体共通」と「主体別(AI開発者、AI提供者、AI利用者)」に分かれています。

表1:AI事業者ガイドライン構成

表1:AI事業者ガイドライン構成

主体共通の主な内容として、基本理念と共通の指針が記載されており、AI活用において共通して認識が必要な内容を細分化して整理しています。
また、主体別としてAI開発者、AI提供者、AI利用者と分かれて記載されており、それぞれの立場によってどのような認識、検討が必要なのかを指針レベルで記載されている内容になっています。
その他の特徴としては別添付属資料が充実しており、事例紹介なども含めて実際にAIルールを策定する場合の「現場レベルで具体的にどうすべきか?」の概要まで公開されています。前提知識が無い方でもわかりやすい内容になっています。

図2:AI事業者ガイドラインと付属資料の階層構成

図2:AI事業者ガイドラインと付属資料の階層構成

表2:AI事業者ガイドライン関連文書一覧[3] ※2024年4月22日現在

表2:AI事業者ガイドライン関連文書一覧

AI事業者ガイドラインの内容

AI事業者ガイドラインの記載内容を簡単に説明していきましょう。
第1部「AIとは」では、AIで使われる用語定義の説明になっています。この用語定義も国や団体等によって違いがあると予想されるため、現時点では参考程度で理解するとよいかと思います。
第2部「AIにより目指すべき社会及び各主体が取り組む事項」では、今後のAI活用に係る理解しておくべき共通事項が細分化されて記載されています。(表1参照)
個別の詳細は割愛しますが、ここでは共通事項として重要な「基本理念」と「共通の指針」を簡単に説明します。
基本理念は、「人間中心のAI社会原則」を実現していくための最上位にあるポリシーのようなもので、AIを今後活用していく上での原理原則の考え方と言ってよいかと思います。原理原則なので、今後技術革新がどれほど進んだとしても大きく変わることは無いAI活用の考え方の根幹になります。

図3:基本理念

図3:基本理念[2]

共通の指針は、10の項目で細分化されています。法整備や規制、技術的対応、人権、真正性、リスク対応など、考慮すべき事項が多数あり、尚且つ今後の技術革新次第では想像できないような活用方法の可能性もあるため、各項目は指針レベルでの記載にとどまっています。今後起こり得るような不足分などが発生した場合には改定もしくは別添(付属資料)等で補うと予想されます。
ほとんどの項目で継続的な議論が必要、もしくは現在進行形でルール化等整備中というのが現実かと思われ、国際基準との協調も踏まえてOECD(経済協力開発機構)のAI原則等を参考にしていると考えられます。[4]

表3:共通の指針[2]

表3:共通の指針(1/2)

表3:共通の指針(2/2)

第3部「AI開発者に関する事項」、第4部「AI提供者に関する事項」、第5部「AI利用者に関する事項」では、それぞれの立場に立った際にどのような対応が必要なのかが記載されています。詳細は長くなるので割愛しますが、AI事業活動におけるライフサイクル管理を意識した作りとなっています。共通の指針とも被る事項も多いですが、それぞれの立場において少し踏み込んだ内容となっています。
自組織がどのあたりのポジションになり、どのような考えでAIを活用していくのかを考慮して、該当する箇所を参考にするとよいでしょう。

図4:AIライフサイクル

図4:AIライフサイクル[2]

表4:AI開発者に係る事項[2]

表4:AI開発者に係る事項(1/2)

表4:AI開発者に係る事項(2/2)

表5:AI提供者に係る事項[2]

表5:AI提供者に係る事項(1/2)

表5:AI提供者に係る事項(2/2)

表6:AI利用者に係る事項[2]

表6:AI利用者に係る事項

AI事業者ガイドラインの対象範囲

AI事業者ガイドラインでは、図4:「AIライフサイクル」にある「データ提供者」と「業務外利用者」が対象範囲外になっています。
この点については注意が必要で、特にデータ提供者についてはAI活用の根本に関わる事項にも関わらず、知的財産権、基本的人権の尊重、越境、プライバシー、バイアス、フェイク等の対応をどのように合理的に解決するのかが現在も世界中で議論されており、すぐには解決できない課題ともなっています。
引き続き国際動向も合わせて情報収集が必要になると思われます。

ナンシー

うん。なんとなく概要はつかめたわね。
あとはコレをどう生かしてルール整備を進めるかね。

タコちゃん

とりあえずウチではAIビジネスまだ始めてないんやから、AI利用者にフォーカスして作っていけばええと思うで。

イカ君

AI使っている人いる?見たことないけど……

タコちゃん

ぼちぼちいるで?あとAI利用だけでも使い方によってはセキュリティリスクやプライバシーリスクなんかが発生するので、最低限のルールは必要なんや。

ナンシー

そう。AIはメリットも大きいけどリスクも理解した上での適切な管理が必要になるの。覚えておいてね。

次回はAI活用におけるリスクについて説明する予定です。

参考文献

  • 文中の商品名、会社名、団体名は、一般に各社の商標または登録商標です。

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