サプライチェーンの管理 - トレーサビリティを超えた問題と解決方法(前編)

2021.07.20

  

1. 概要

ブロックチェーン技術が暗号通貨だけでなく、物流でのサプライチェーンにおいても利用されるようになったことは、非常に重要です。サプライチェーンの業務の流れを管理するにあたっては、そもそも複雑で多層構造化されており、かなりの時間がかかっていました。

これが物理的にも文化的にも距離がある多国間で摩擦が起き始めると、事態はさらに深刻になります。今やビジネスはグローバル展開により、製造・包装などの工程を他国にもアウトソーシングしていますが、世界各国では、偽粉ミルク問題や馬肉混入問題[1][2]などの品質疑惑が広くスキャンダルとして公表されるようになり、消費者にとっても広告に謳われている製品情報に対して不信感が増大したためです。

不変で多量に複製しても高い再現性を誇り、且つ分散された台帳で管理されるブロックチェーンは、こうした信頼性に対して、まさに最適な問題解決策でした。 ブロックチェーンの恩恵によって物流業界は、ほぼリアルタイムで情報共有・公証(内容が法的に本物であることの証明)・トレーサビリティという基本的な仕組みが提供され、サプライチェーンのプロセスは大幅に加速しました。

図:サプライチェーンの複雑なワークフロー図:サプライチェーンの複雑なワークフロー[3][4]

しかしながら、そこにも課題はまだ残りました。トレーサビリティ情報は、商品や出荷の現状を把握し、生命への悪影響や風評被害などを最小限に抑えるのに役立ちましたが、意思決定の能力向上にはつながりませんでした。第一に、物理的サプライチェーンと金融サプライチェーンは十分に連携されず、このような、複数の独立したエンティティにまたがる複雑なワークフローの自動化は、手つかずのままでした。ラストマイルのユーザビリティや入力データの信頼性・安全性など、多くの運用上の課題により、企業は単純なTrack & Traceのブロックチェーンソリューションへの投資に懸念が残りました。

したがって、トレーサビリティを超えて、サプライチェーン全体の幅広い課題に共に取り組むための、総合的な解決策を検討する必要がありました。NTTデータグループでは、このような複雑で難解な課題を深堀りし、これまでのソリューションに、対策として必要なコンポーネントを追加・実装してきました。これらのコンポーネントは、今日の複雑なサプライチェーンに対し、その効率性とトータルバリューを向上させる真のソリューションを構築するために、ビジネスニーズに応じて組み立てることができます。

この記事ではまず、これらの課題と留意すべき点について詳しく説明していきます。

(※執筆協力(敬称略):NTT Data Global Delivery Services Pvt. Ltd. (Pune) Vineet Mago, Tushar Katkar)

サプライチェーンの管理 - トレーサビリティを超えた問題と解決方法(後編)はこちら

2. サプライチェーン ー トレーサビリティを超えた問題

商品・サービスの商取引 (多くの場合、金銭との引き換え) は古くから行われてきたビジネスですが、グローバルで相互に関連するサプライチェーン管理は、本質的には現代の概念です。組立ラインの導入により、サプライチェーンの管理は、プロセスの最適化、ワークフロー、およびそれらに関連したコスト削減に関する積極的な研究とともに、最も重要な分野の1つとなりました。「サプライチェーンマネジメント」 という言葉自体は1982年に作られたもので、同時期に急速な高速輸送手段の出現や情報通信システムが普及し、グローバルなサプライチェーンの実現が可能となりました。グローバル・トレーディング・パートナー間の電子データ交換 (EDI) を促進するために、様々な技術標準も策定されました。そして、エンタープライズ・リソース・プランニング (ERP) のための洗練されたソフトウェアは、ますます複雑化するサプライ・チェーンの管理に役立ちました。

21世紀の幕開けは、コンピューティングと通信に新しい道をもたらしました。スマートフォン上で動作するアプリケーションは、ユーザーとの対話のためのより新しく、よりリッチなインターフェースを可能にしました。今日、IoT・AI・機械学習・ブロックチェーン・RPAなどの現代技術の進歩を活用した最新のデジタルソリューションは、さまざまなサプライチェーンワークフローの最適化に影響を与え続け、ユーザーに新しい価値を創造し続けています。

ブロックチェーンは、過去10年間に導入された最も破壊的な技術の1つです。それは、大量に複製された不変の分散台帳をコアとして提供しつつ、それを管理するための中央集権的な権限を必要としません。その代わり、ネットワーク自体が、分散型の合意メカニズムに従って台帳を維持する責任を負っており、これにより、情報の信頼性を数学的に証明できるようになります。

初期の頃から、ブロックチェーン技術はサプライチェーン管理を根本的に変革する可能性があると考えられていました。それは、情報をほぼリアルタイムで配布すると同時に、共有情報の不変かつ永続的な記録として機能するプラットフォームを提供できたからです。これにより、サプライチェーン上の製品の最新状況を簡単に追跡できるようになり、情報がブロックチェーンに保存されている情報と全く同じで、改ざんされていないことが保証されます。そのため、すべての関係者が一度に信頼できるデータを持つことが可能となりました。

サプライチェーン管理におけるブロックチェーンのほとんどのPoCと初期生産グレードの製品は、3つの主な利点を提供することに焦点を当てています。

  1. 1.さまざまなアセットに関する情報の追跡とトレース
  2. 2.すべての関係者とのほぼリアルタイムの情報共有
  3. 3.データの完全性を確立する共有情報の公証

ブロックチェーンアプリケーションによって、消費者は購入した製品のさまざまな成分がどこから来たのか、それらがどのように組み立てられて最終製品になったのかを正確に知ることができ、工場からスーパーマーケットの棚までの製品の全行程をマッピングすることができます。企業にとっては、製品を効率的に管理するための正確かつ最新のステータスを提供することで、配信ワークフローの迅速化とコストの削減に役立ちました。また、影響を受けた製品を迅速に特定し、是正措置を講じることで、製品のリコールにつながるあらゆる悪条件を迅速に管理することができました。

これらのブロックチェーンベースのトラックとトレースのソリューションには当初、多くの関心を集めましたが、しばらくするとその高揚感が弱まっていきました。理由の1つには、製品の出所に関する最も一般的なユースケースは、主にマーケティング機能、つまり製品の出所と品質を確立する役割を果たし、製品や関連情報に関する信頼を構築するのに役立ちますが、すべての競合製品が同じ信頼できる情報を提供する場合、売り上げを大幅に増加させるものではありません。このトレース情報は、一定の高級品などの場合には非常に重要なものとなりましたが、その他のジェネリック製品については、消費者は企業からの情報を期待しており、売り上げの増加にはあまり貢献しませんでした。

さらに、ブロックチェーンは、保存されたデータが改ざんされていないことを証明しましたが、データ入力の安全性の問題は未解決のままでした。欠陥データがそもそもブロックチェーン上に置かれた場合、その欠陥データの信憑性について課題が残りました。そのため、入力データにも、例えばIoTベースのスマートセンサによって自動的に生成される必要があると考えられますが、このようなソリューションは、独自の運用上の課題をもたらします。

最後に、現実の世界における商品や製品の物理的なサプライチェーンでは、並行して金融サプライチェーンを伴うものとなります。物理的なサプライチェーンのみに焦点を当て、同様に重要である金融サービスを除外することは、あまり有益ではありませんが、統合も容易ではありません。ワークフローの自動化と、いくつかのルールや規制へのコンプライアンスに関連する課題などを解決する必要があります。このような統合ソリューションは、最高水準のセキュリティとプライバシーを遵守する必要があることは言うまでもありません。

これらの課題を深堀りして検討することで、包括的な対処策が打てますが、同時にそれは非常に複雑です。最初のステップは、これらの課題を分類することからです。影響の関連性に基づいて、これらの問題は次のように分類できます。

  1. 1.自動化と調整の問題:複数の利害関係者のシステム間でワークフローの自動化と情報の調整を試みる際に発生する問題。
  2. 2.スケーリングと運用上の問題:関連するプロセスの運用上の複雑さのために生じる問題であり、サプライチェーンの範囲を拡大しながらさらなる問題につながる。
  3. 3.プライバシーとセキュリティの問題:サプライチェーン上の商品や製品の個人情報のセキュリティおよび管理された共有に関連する課題から生じる問題。

これらの問題については、次のサブセクションで詳しく説明します。


2.1 自動化および調整の問題

現代のサプライチェーンには、サプライヤー、荷送人、貯蔵ユニット、ドライバー、製造業者、包装ユニット、配送ユニット、スーパーマーケット、検査官、規制当局、銀行、金融業者、保険会社など、多くの関係者や利害関係者が関与しています。これらのアクターの多くは、それぞれ独自のルールや運用手順を持つ別々の組織です。そのため、各組織が従う内部データ構造、フォーマット、および標準は、まったく異なる場合があり、場合によっては、他の組織が準拠するものと矛盾することさえあります。

このような組織間ワークフローの自動化には、3つの基本的な問題を解決する必要があります。

  1. 1.ブロックチェーン上に共有される情報の一貫性を担保するために、共通のデータフォーマットの定義
  2. 2.異なるビジネス識別子で製品ID、ドキュメント番号などの共有情報のを相関関係の担保の必要性。
  3. 3.特定の内部ワークフローと外部ワークフローをキックするために、上記のような共通データ形式と会社固有形式との変換を可能にする。

これらの問題は、複数の利害関係者間の重要な製品情報や金銭情報の交換を伴うため、全体のコンセンサス促進の観点からも重要であるといえます。

GS 1やEPCISなどの標準は、サプライチェーン上の製品の異なる状態や、状態を表す共通のデータフォーマットや構造を持つ問題に対処しようとしましたが、トレーサビリティの観点からの問題を解決しただけであり、上記のような自動化の大きな問題には不十分でした。したがって、必要なのは、より包括的なソリューションを提供することです。

  • トレーサビリティの側面と追跡・追跡の詳細を現実のB to B取引に統合すること
  • 組織間のワークフローを自動化
  • 財務ワークフローとの統合を可能とする
  • 最高水準のデータプライバシーとセキュリティを維持しつつ、これらすべてを達成する

2.2 拡張性と運用上の問題

ブロックチェーンは本質的にインフラを重視したソリューションです。各関係者は、十分なセキュリティ・ストレージ・アクセス制御を備えた独自のブロックチェーンノードを設定する必要があります。すべてのユーザーは、ウォレットと資格証明を安全に管理する必要があり、高可用性・バックアップ・リカバリなどの備えも重要です。また、 「正しい入力データ」 を生成するIoTデバイスは、独自のインフラの課題をもたらします。センサーは、認証情報と証明書を保存し、実行するためのバッテリを必要とする上、これらのセンサーによって生成されるデータの安全性は、その動作セキュリティとメンテナンスに依存します。したがって、これらのセンサーを監視するための仕組みや、紛失・破損・盗難・誤動作等に関連した警報、および異常に対処するための対応ワークフローを構築することが必要となります。

こうして強固な安全性確保等が必須のIoTセンサーが、例えば、辛うじてネットワークが届いているような、都市の中心部から離れた奥深いオリーブの森や、標高の高い高原地域のサフラン農場などで利用され、さすがに最新のテクノロジー事情にはそう明るくない農場担当者等によって管理されているケースも、今後想定されます。そのような状況を想像した場合、運用面で大きな課題があることは明らかでしょう。

既に運用中のネットワークに新しい利害関係者を追加することも同様に複雑です。これは、すべてのローカルな問題と課題に対処しながら、各独立した関係者に対して繰り返し全設定を施す必要があるためです。同様に、新しいIoTセンサは、ブロックチェーンネットワークが処理するための、全く新しい一連のテレメトリックデータトランザクションが更新されることを意味します。そして今のところ、ブロックチェーンは大量の情報をうまく処理できていないため、ブロックチェーン上のIoTセンサの出力を公証する前に、適切な圧縮または統合スキームを設計することが重要となるのです。

これらの拡張性の課題と関連する運用コストは、ブロックチェーンベースのソリューションへの投資を妨げる、大きな要因となる可能性があります。


2.3 プライバシーとセキュリティの問題

上述のサプライチェーン特有の課題とは別に、ブロックチェーンにはプライバシーとセキュリティに関しても、独自の課題があります。データはネットワーク内のすべてのノードで複製されるため、スマートコントラクトは、関連情報のみをキャプチャして共有するよう慎重な設計が必要です。プライベートトランザクション・ゼロ知識証明 (Zero Knowledge Proof) ・暗号化されたデータベースなどは、限られた関係者間のみで情報を共有することで、プライバシーの確保に役立つ機能の一つです。巨大なマルチメディアファイルを格納し、関連するアクセス制御機構を管理する場合、オフチェーンとオンチェーンの情報の組合せが必要となります。

詐欺や悪意のある行為へのセキュリティ対処には、ユーザー側が資格証明・証明書・プライベートキー・ウォレットを安全に管理することが最も重要です。全てのユーザーは、このような安全なメカニズムと手順を把握する必要があります。さらに、ネットワーク設計者も、全関係者間における、さまざまな通信チャネル上のセキュリティを考慮する必要があります。このような分散ネットワークのセキュリティ面を全て管理することは、コストのかかる作業です。

対処すべき多くの課題があるため、サプライチェーンを管理しようとするソリューションは、トレースまたは公証の側面のみに焦点を当てるだけでは十分ではありません。その一方で、これらの問題を全て一度に解決するのは大変困難です。運用上の問題の解決・運用効率の向上・プロセスのシンプル化と自動化を実現するソリューションを設計するには、ヒューリスティックなアプローチが必要です。このようなソリューションでは、モバイルデバイス、IoT、ブロックチェーンノードを組み合わせて基盤を構築することで、小規模なビジネスパートナーであっても人の介入や依存を減らし、プロセスを自動化することができます。サプライチェーン上のより多くの関係者に適用されるように拡張されれば、企業が求める投資対効果として、生産性と効率性が大幅に向上することは間違いありません。

上記のような複雑な課題解決は非常に困難ですが、グローバルデリバリー機能を提供している当社では、これまでNTTデータグループのリソースを活用しブロックチェーンに関する課題を解決してきました。NTTデータグループでは、サプライチェーン管理のためのブロックチェーンソリューションを積極的に開発しています。その中でも、とりわけBlockTrace®ソリューションは、GS 1/EPCIS互換のトラックおよびトレースソリューションにブロックチェーンベースの公証インターフェースを提供しており、今回紹介した注意点や課題の多くに対応することができます。

まとめ

今回はサプライチェーンの分野において、複雑さを増すトレーサビリティを超えたところにある課題や留意すべき点などを紹介しました。次回は、NTTデータグループのサービスを利用した実例や機能の解説を用いて、ブロックチェーンにおける様々な課題解決の方法を詳しく解説します。